だが、私の頭の中にはもう一つの決断がある。そのことを靖雄さんに伝えることにした。
「そこで私、思ったのですが。靖雄さん…」
ここからは大きな声では言えない。まだ他の人に聞かれるわけにはいかない内容だ。靖雄さんに小声で耳打ちをする。
「私は作家一本でこれからの人生を過ごしていきたいんです。けれど、このお店をつぶすわけにはいきません。そこで靖雄さん、このお店を継いでもらえないでしょうか」
思い切って私の決断を伝えてみた。果たして靖雄さんはどんな反応を示してくれるだろうか。
成功哲学の祖、ナポレオン・ヒルは、鉄鋼王のアンドリュー・カーネギーから成功のノウハウをまとめて欲しいと依頼されたときに、これを無報酬でやってほしいと言われた。そのときに決断した時間は29秒だった。このときに、成功者には決断力が必要であることを悟ったという。それが名著「思考は現実化する」をつくりあげたのだ。
靖雄さん、すぐに決断するだろうか。それとも一晩考えさせてくれと言うだろうか。いや、一週間ほど考えると言い出すかもしれない。
「いかがですか?」
ドキドキしながら靖雄さんの言葉を待つ。さすがに複雑な表情を浮かべる。私も複雑な時を待つ。