これでもし、靖雄さんが私の思ったような人であれば。私は靖雄さんと同じように作家として今とは別の道を歩んでいきたい。けれど、思ったような人でなければ…いや、それは考えないようにしよう。私の幸せよりも、靖雄さんが今以上の幸せを得ること、その方が大事じゃないか。
よし、思い切ってやらせてみよう。
「靖雄さん、もう一度シェリー・ブレンドを淹れてみませんか?」
「えっ、もう一度?」
「はい。ぜひお願いします」
私がひらめいたこと、それはもう一度靖雄さんにシェリー・ブレンドの魔法が使えるか、チャンスを与えることだった。魔法の種明かしはした。あとは運を天に任せるだけだ。
靖雄さん、先程と同じような、いやそれよりもなめらかな手際でコーヒーを淹れていく。そして、最後のドリップのところでなにやらつぶやいているのがわかる。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
差し出されたシェリー・ブレンド。まずは香りを楽しむ。うん、いい香りだ。
そしていよいよコーヒーを口に含む。その瞬間、今までとは違う味がした。なんだ、この味は。今まで何百杯とこのコーヒーを味わってきたが、そのどれでもない。まさに未知の味がする。けれど、その先に光が見える。