第120話 マスター その17 | 【小説】Cafe Shelly next

【小説】Cafe Shelly next

喫茶店、Cafe Shelly。
ここで出される魔法のコーヒー、シェリー・ブレンド。
このコーヒーを飲んだ人は、今自分が欲しいと思っているものの味がする。
このコーヒーを飲むことにより、人生の転機が訪れる人がたくさんいる。

 私は多くの人を幸せに、笑顔にしたくてコーヒーを淹れてきた。小説も同じ、読んだ人がそこから勇気をもらい笑顔の生活になるヒントを与えることができれば、そんな思いで書いてきたはずだ。

 

 ところが今回取り組もうとしている作品は、作家として初の書き下ろしなだけに、自分を認めてもらいたい、失敗したくないという気持ちが強かった。

 

 もう一度初心に返ってみよう。私が伝えたかったもの、それは何なのか。みんなが笑顔で生活できる、そのための情報を小説を通じて与えることが私の使命。

 

 そう思った途端、アイデアが湧き出してきた。そうだ、今の自分の状況をそのまま書けばいいんだ。初心を忘れてしまったマスターが、自分のやるべきことを思い出してそこに邁進していく。そんな姿を描いてみよう。

 

「私、あなたのような人になりたいと思いました」
 

「私のような人?」

 

 靖雄さんが突然そう言ってきた。私のような人ってどういうことだろう。

 

「そう、喫茶店のマスターとして、いろんな人の幸せを願いつつコーヒーを淹れる。そんな人生です」

 

 私の今までやってきた生き方に共感してくれた。このとき、ひらめいたことがあった。これを靖雄さんにやらせてみるべきか、悩んでしまう。