第120話 マスター その16 | 【小説】Cafe Shelly next

【小説】Cafe Shelly next

喫茶店、Cafe Shelly。
ここで出される魔法のコーヒー、シェリー・ブレンド。
このコーヒーを飲んだ人は、今自分が欲しいと思っているものの味がする。
このコーヒーを飲むことにより、人生の転機が訪れる人がたくさんいる。

 私と靖雄さんの淹れ方の違い。私はそこに気づいている。けれどそれを言ったところで靖雄さんがシェリー・ブレンドの魔法を使えるわけではないだろう。あれはただの気休めに過ぎない。

 

 が、意外にも靖雄さんはその違いに気づいたようだ。

 

「マスターはお湯を注ぐ時に何かつぶやいていましたよね。そこに違いがあるんじゃないかって思ったんですけど」
 

「あぁ、あれですね」
 

「あれって、なんて言っているんですか?あれが魔法の呪文のように思えるのですけど」
 

「私も意識して言っているわけじゃないんです。ただ、飲んだ人が幸せを感じますようにって、そう願っています」

 

 私と靖雄さんの違いはここだ。靖雄さんはコーヒーとだけ向き合っていた。私はむしろ、シェリー・ブレンドを飲んで頂くお客様の幸せと向き合っている。そうすると、自然と言葉が出てくる。ただし、その言葉は自分でも何と言っているのか意識をしていない。まさに魔法の呪文といってもいいだろう。

 

 靖雄さん、それから私にどうしてこのような気持ちを持ってシェリー・ブレンドを淹れるようになったのかを質問してきた。それを話すことで、私は初心に戻ることができた。そうだ、今書いている小説も同じじゃないか。