そうやって悩んでいる時に、一人のお客様がカフェ・シェリーへと足を運んでくれた。
「こんにちは、今日はマスターを尋ねてきました」
「それは光栄ですね。ありがとうございます」
一瞬ドキッとした。私を尋ねてきた、ということで私が小説「マスター」の作者だとバレてやってきたのかと思ってしまった。しかしそれは杞憂であった。
「実は私、西脇さんのところによく通っていまして。そこでマスターのコーヒーのことを聞いてきたんです。なんでもすごい味を出すとか。でも、具体的にどんな味なのか教えてくれないんですよ。飲んでからのお楽しみということで。それで今日ここにやってきたんです」
なるほど、私のコーヒーの師匠でもある西脇さんからシェリー・ブレンドのことを聞いてきたのか。
「ははは、西脇さんも意地悪な人だな。でも、たしかに西脇さんの焙煎した豆で淹れるコーヒー、シェリー・ブレンドは一言では言えない味だとは思います」
「じゃぁ、早速そのシェリー・ブレンドをいただけますか?」
「かしこまりました」
私はいつものようにシェリー・ブレンドを淹れる。
「おまたせしました。シェリー・ブレンドです」
さて、この人はどんな味を体験するのだろう。