第97話 握る手、離す手 その15 | 【小説】Cafe Shelly next

【小説】Cafe Shelly next

喫茶店、Cafe Shelly。
ここで出される魔法のコーヒー、シェリー・ブレンド。
このコーヒーを飲んだ人は、今自分が欲しいと思っているものの味がする。
このコーヒーを飲むことにより、人生の転機が訪れる人がたくさんいる。

「ということは、おばちゃんは新しいものを望んでいるってこと?でも、何に対して新しいものなのかなぁ」

 

 のりちゃんの言うとおり、この点が私にはわからない。新しい家電製品でもないし、新しい洋服でもない。私はなんに対して新しいものを望んでいるのだろうか。

 

「一つお尋ねしてもいいですか?」

 

 マイさんがそう言ってくる。

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「ひょっとしたらですけど、随分前から何か執着しているものってないですか?」

 

 随分前から執着しているもの。そう言われて思いつくのは一つだけ。死んでしまった息子のこと。でも、それを今のりちゃんの前で口にしたくない。

 

「まぁ、あるにはあるのですが…」

 

 すると、マイさんは私の様子を見てなのか、こんな提案をしてきた。

 

「もしよろしかったらですが。私、カラーセラピーというのをやっています。このお店が閉まる夜の七時から予約制なのですが。そこでお話するのはいかがでしょうか」

 

 以前、私は心の病にかかっていた時にカウンセリングには通っていた。あのとき、死んでしまった息子のことへの後悔の念を話すことで、少しは気が楽になったことを思い出した。

 

「そうですね、そうさせていただけるのであれば。ぜひ」