「いかがでしたか?」
その声にハッとした。いけないなぁ、妄想で突っ走るクセがあるからなぁ。
「え、えぇ、とてもおいしいコーヒーでしたよ」
とりあえずありきたりの答えをマイさんに伝えた。
「私の目から見ると、何かをイメージされていたように思えるのですが」
げっ、妄想していたのがバレてる。私、どんな顔をしていたんだろう。
「わ、わかります?」
「はい、実はそれがシェリー・ブレンドの効果ですから」
「シェリー・ブレンドの効果?」
どいういうことだろう?
「シェリー・ブレンドは飲んだ人に魔法をかけるんです。その人が望んでいるものの味がするんですよ。人によっては、望んでいることの映像が見えてくるんです」
映像って、まさに今私が見たものじゃない。
「何か見えてきましたか?」
「え、えぇ。実は…」
私は由衣さんと出会ったきっかけから、今抱いている自分への不満、そして今日何のためにここにやってきたのか、そしてシェリー・ブレンドを飲んで見えてきたものをマイさんに話してみた。
「なるほど、そういうことなんですね。じゃぁ私から一つ質問してもいいですか?」
「はい、なんでしょうか?」
「もしみさきさんが描いている未来が叶ったら、まず誰に感謝を伝えてみたいですか?」
誰に感謝を。ぱっと思いつく人はたくさんいる。
「やっぱり指導をしてくれる由衣さんでしょ。そして一緒に家庭を支えてくれる旦那。私が指導を受けている間、一人にさせてしまう息子の利弥。他には…」
まだ出そうと思えば名前は出てくる。
「もっと大事な人を忘れてはいけませんよ」
「もっと大事な人? うぅん、両親とか?」
まだ名前を出してはいないが、それは頭にはひらめいていた。マイさんは私の言葉ににこりと笑っているだけ。答えは教えてくれない。
「う~ん、わかんない。降参」
ちょうどそのとき、ドアのカウベルが鳴り響いた。
「いらっしゃいませ。あ、由衣さん」
「遅くなってごめんなさい」
現れたのは由衣さん。走ってきたのか、息が荒い。
「みさきさん、シェリー・ブレンド飲んでみたんですね。どんな味がしました?」
由衣さんは腰掛けながら私にそう質問してくる。
「えぇ、ちょっとびっくりしました。私がなりたい未来が見えましたよ」
「どんな未来だったんですか?」
私はここで先程マイさんに話したことをそのままもう一度伝えてみた。さらにその後、マイさんからあった質問も。
「なるほど、誰に感謝を伝えたい、か。で、みさきさんはどう答えたんですか?」
「それがですね、私の身近にいる人とかをあげたんですけど、どれもまだ正解じゃないみたいで。ねぇ、マイさん、正解は?」
マイさんはカウンターで微笑んでいるだけで、答えを教えてくれない。
「由衣さんはこの答え、わかりますか?」
「そうですね。教えるのは簡単ですけれど、その前に簡単なメタファリングをやってみましょうか」そう言って由衣さんは八色の色のカードを取り出した。
「赤、オレンジ、黄色、緑、青、紫、ピンク、そして白。ここに八色のカードがあります。この中で、好きな色ではありません、今みさきさんが感謝したい人のことをイメージした時にピンとくる色を一つ選んでもらってもいいですか?」
感謝したい人のこと。今まで答えた人以外と考えると…私はなんとなく白を選んだ。
「白ですね。ではどうしてこのカードを選んだと思いますか?」
どうして…その答えがなかなか思いつかない。私はどうしてこの白のカードを選んだのだろう? 何気なくシェリー・ブレンドに手を伸ばす。そしてそれを一口飲んだ時、私の中でまた強烈なイメージが思い浮かんだ。