第54話 戸惑いながら その5 | 【小説】Cafe Shelly next

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喫茶店、Cafe Shelly。
ここで出される魔法のコーヒー、シェリー・ブレンド。
このコーヒーを飲んだ人は、今自分が欲しいと思っているものの味がする。
このコーヒーを飲むことにより、人生の転機が訪れる人がたくさんいる。

「じゃぁ、ここで私がみさきさんをレッスンすることにしましょう。ここだとみさきさんも自分の将来がはっきりと見えてくるはずですから」

 ここだと、という意味がよくわからないが。とりあえず一回目の具体的な日時を決めて、この日は終了。気がついたらトントン拍子に自分の未来が決まっていった。

 うん、これなんだよなぁ。なんだか自分の未来が見えてきた感じがして、期待感が高まっている。けれどこれって、毎回何かを始めるときに同じ事を繰り返している気がする。また同じようにならないといいけどな。

 そんなことを部屋に帰って旦那に報告。

「ん、いいんじゃない」

 旦那はテレビを見ながらたった一言、そう言うだけ。一見すると無関心に見えるけれど、これが旦那流の応援のやり方だっていうのはわかっている。ちなみにカフェ・シェリーのことを聞いてみたけれど知らなかった。

 そんなこんなで一週間が経過。私は由衣さんと待ち合わせをしたカフェ・シェリーに向かった。

「へぇ、ここの二階だったんだ」

 カフェ・シェリーのある通りはよく行くところ。パステル色のタイルが敷き詰められた道路で、道の両脇には小さなお店がたくさん並んでいる。いつもは一階のお店しか気にしなかったなぁ。

 階段を上がり、ドアを開く。

カラン・コロン・カラン

 心地良いカウベルの音が私を出迎えてくれた。同時に聞こえてくる女性の「いらっしゃいませ」の声。少し遅れてカウンターの方から男性の低くて渋い声で「いらっしゃいませ」。喫茶店なんて久しぶりだな。

「お一人ですか?」

「いえ、待ち合わせなんですけど」

「あ、もしかしたら由衣さんとですか?」

 女性店員がそう声をかけてくる。

「はい、そうです」

「だったら伝言があるんです。どうしても抜けられない用事ができて、一時間ほど遅れるそうです」

 なんだかちょっと残念だな。

「そのかわり、シェリーブレンドをご馳走しますっていうことでした」

「シェリー・ブレンド?」

「当店のオリジナルブレンドです。もう一つ由衣さんから伝言です。シェリー・ブレンドを飲んだ感想を、マスターとマイさん、あ、私のことです、に伝えてみてくださいって」

 どういう意味だろう? とりあえずお店の真ん中の丸テーブルの席に腰を下ろす。そしてシェリー・ブレンドが来るのを待つことにした。

 あらためて店内を見る。カウンターの横に二色のボトルが並んでいる。確かオーラソーマのボトルだ。

 このお店、色は茶色と白で統一されてなんだか落ち着いた雰囲気。音楽もジャズが流れていて、軽快だし。そしてコーヒーの香りと甘いクッキーの香りがいい感じでミックスされている。

 大人の雰囲気のお店だけれど、それでいて妙に心が弾んでいる。こういうお店でメタファリングとかやるといいかもなぁ。そんなことを妄想してしまう。ちなみに妄想は得意技だ。

「おまたせしました。シェリー・ブレンドです」

 運ばれてきたのはいい香りのコーヒー。喫茶店のコーヒーなんてすごく久しぶりだな。いつもインスタントばかりだもん。

 早速そのコーヒーに手を伸ばし口に含む。うん、なんだか味もすごくまろやか。そしてすごくワクワクを感じる。これから由衣さんにメタファリングを教えてもらえるという期待がさらに高まる。そしていつかは場所を借りてサロンを開き、そこにたくさんの人が集まって。私はその中で、由衣さんのように多くの人の悩みを聞きながらも常に笑顔で対応している。メタファリングの教室なんてやるのもいいな。

 妄想はどんどん広がっていく。今までこんなに強烈に、そして鮮明に思いを描けたことはなかったな。