八枚の絵をひと通り眺める。人物画だったり風景画だったり、いろいろなのがある。画のタッチもさまざまだし、色使いもバラバラ。その中から直感で一枚選んだ。
「この絵のどこが気になりましたか?」
「うんとね、男の子が一人で歩いているところ、かな」
「男の子が一人で歩いているところか。それってみさきさんにとってどんな意味があると思いますか?」
由衣さんにそう質問されて悩んでしまった。どうしてこの部分が気になるんだろう。
「そうねぇ…なんか今の私みたい。何もアテがなくてフラフラ歩いている…」
言いながら気づいた。今の私って、特に大きな目標もなく、フラフラしている状態なんだ。
由衣さんはさらに私の今の状況を詳しく聞いてくる。その答えを言えば言うほど、今の自分がいかに意味もなく生きているのかがわかってきて情けなくなる。
「では次に、みさきさんの理想的な姿をイメージした時に、ピンとくる絵を一枚選んでください」
今度は理想の状態か。これはすぐにひらめいた。
「これ、この大きな木の絵」
「これのどこが気になりましたか?」
「なんか安定感があって、そして大きく枝葉が伸びていくところかな」
そこから私は勝手に一人でしゃべりだした。こんな風に成長したいんだ、こんな生き方をしたいんだ。言いながら気がついていく。そうか、私ってそういう生き方をしたくていろんなことに手を出していたんだ。けれど、この木のように安定した幹となる部分がなかった。その幹となる部分を探したい。そのことを由衣さんに伝えた。
「なるほど、安定した幹を見つけたいんですね。ではそれを見つける方法、解決策をイメージした時にピンとくる絵を一枚選んでもらってもいいですか?」
見つける方法、これがわかれば苦労はしないんだけど。残った六枚のカードを眺める。どれだろう? そう思いながら見ていると、なんとなくこれかなっていうのが目についた。
「この、お花の絵です」
「花の絵ですね。これのどこが気になりましたか?」
「この花になる人、私のモデルになるような人を見つける…」
口から先に答えが出てきた。
「そのモデルとなるような人って、どんな人ですか?」
ここで私ははっきりわかった。この花のように咲いている人。それは…
「由衣さんです」
私の答えにさすがにびっくりしたようだ。私は言葉を続けた。
「由衣さん、私の師匠になってくれませんか? 私、由衣さんにこのメタファリングを学びたいって思ったんです」
「私に、ですか?」
「ごめんなさい、突然でしたね。ダメですか?」
「いえ、ダメじゃないんですけど…。ちょっとびっくりしちゃって」
「ちゃんとお金は払います。私、前からこういう人の役に立つことをしたかったんです。心理学にも興味があったし。コーチングも勉強したかったけど、ちょっと高かったから…」
「そうですね…でもよく考えたら、どうやって教えればいいのか。みさきさんってお住いは?」
そっか、離れてたら無理か。
「由衣さんはどちらの大学なんですか?」
由衣さんの大学名を聞いてびっくり。
「えっ、私の家ってそこのすぐそばですよ」
「じゃぁみさきさんとはわりと近所なんだ。そしたら…そうだ、あそこにしよう。ね、カフェ・シェリーって喫茶店ご存知ですか?」
「カフェ・シェリーは知らないなぁ。それ、どこにあるんですか?」
場所を聞いてこれまたびっくり。私がパートで行っている事務所の近くじゃない。