第40話 魔法の効かない男 その2 | 【小説】Cafe Shelly next

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喫茶店、Cafe Shelly。
ここで出される魔法のコーヒー、シェリー・ブレンド。
このコーヒーを飲んだ人は、今自分が欲しいと思っているものの味がする。
このコーヒーを飲むことにより、人生の転機が訪れる人がたくさんいる。

 そうか、飯山先生に相談してみよう。先生なら誰かに話すなんてことはないだろうし。僕の生活に直接関与しているわけでもないから、客観的な意見がもらえるはずだ。同窓会まではしばらく悩みの状態が続くが。まぁ希望の光が見えてきたからそのくらいは我慢できそうだ。

 それから二週間、頭の中で悩みが浮かんではくるものの、同窓会までカウントダウンすることで自分の気持ちを落ち着けることができた。そうして待ちに待った同窓会の日。会場に入ると待ち受けていたのは幹事の隆史である。

「よぉ、明。遅刻魔のおまえがこんなに早く来るなんて珍しいな」

「ばぁか、僕だってもう部下を持つ身なんだから。学生時代みたいにちんたらやってらんねぇよ」

「その割にはオレの結婚式じゃギリギリだったじゃねぇかよ」

「そういうのはちゃんとTPOを使い分けてんだよ」

 なんて感じで冗談を言い合う。隆史は気のいいやつだ。

「ところで飯山先生は?」

「まだお見えになってないけど。何かあるのか?」

「あ、いや。まぁいいか」

 できれば皆んなが集まる前に少し話をしておきたかったんだが。

 今日の出席者は三十名ほど。わざわざ九州からきたのもいるという。飯山先生の人気ぶりがわかる。そうしているうちに人が集まりだした。懐かしい顔ぶれもある。誰だかわからないくらいのヤツもいる。そして主役の飯山先生が登場。みんな拍手で出迎えた。

「よっ、今日はありがとう」

 もう還暦とはいえ、まだまだ若い。堅苦しい挨拶は抜きにして、みんな思い出話に花が咲き始めた。僕はなんとか飯山先生に相談を持ちかけようと近づいたが、その度に誰かに呼び止められたり、飯山先生が誰かと話をしたりしてそのチャンスを伺えなかった。

 そうしているうちに場はお開きに。けれどまだチャンスはある。

「先生、まだお時間はありますか?」

 思い切って先生にアプローチ。

「あぁ、まだ今日は大丈夫だ。二次会にでも行くか?」

 願ったりだ。だがここでおじゃま虫が。

「なになに、二次会行くの? オレも連れてけよ」

 隆史が横から割り込んできやがった。下手に断るわけにも行かない。で、結局その他に二人合流、合計五人で二次会へと足を運ぶことに。着いたのは先生の行きつけのスナック。僕はすかさず先生の横を陣取り、乾杯もそこそこに話を始めた。

「飯山先生、先ほどはゆっくりお話をするチャンスがなくて」

「いやぁ、私もまいったよ。立ち替わり入れ替わりみんなが来るものだから」

 そう言いながらも、まんざらではないという表情を浮かべる飯山先生。

「それで先生、ちょっと今悩みがあるんですけど、相談にのっていただけないでしょうか?」

「ん、どんなことだね?」

 ようやく先生に話をすることができるぞ。そう思った矢先。

「おい明、なに神妙な顔つきしてんだよ。ったく、辛気くせぇぞ」

 先生との会話に横から隆史が割り込んできやがった。ったく、これからだというのに邪魔しやがって。だが、さすがは飯山先生だ。

「こら、加藤。今こっちは大事な話をしているんだ」

 隆史もさすがに飯山先生にそう言われると態度を一変。

「あ、すいません。でもなんだかいつもの明らしくねぇなって思ったもので。なんか悩みでもあるのか?」

 うっ、なんでわかるんだよ。こいつ、こういうところには鋭いからなぁ。図星を指されて躊躇しているところに、隆史はすかさず言葉をかぶせてきた。

「そういう悩みを解消するんだったら、いいところがあるんだよ。カフェ・シェリーって喫茶店に行ってみな。あそこの魔法のコーヒー、シェリー・ブレンドを飲めば、一発で悩みなんて解消するからよ」

 なんだよ、それ。魔法のコーヒーって、そんな都合のいいものがあるわけないじゃないか。そう思っていたら、なんと飯山先生から意外な言葉が発せられた。