登場人物
カイン……主人公。口数の少ない優男。元王宮兵士
ヤンガス……元山賊。カインをアニキと呼ぶ
ゼシカ……元アルバート家令嬢。猪突猛進
ククール……元マイエラ聖堂騎士団。キザ男
トロデ王……亡国の国王。呪いで魔物の姿にされている
ミーティア姫……トロデ王の娘。呪いで馬の姿にさせられている
トーポ……ネズミ
メディ……故人。山小屋の薬師。カッティードの末裔
レオパルド……ハワードの愛犬。暗黒神の杖を持っている
レティス……神鳥
ゲルダ……ヤンガスの旧知の女盗賊
キャプテン・クロウ。
海の男でその名を知らぬ者はいない。
かつて、世界の海をまたにかけた、
海賊の中の海賊、
それがキャプテン・クロウである。
生前のクロウは、世界中の財宝という財宝を手にし、
手に入れられぬものなどないと、
自他共に認める大海賊だったが、
そんな大海賊が、
死ぬ際になって心残りと嘆いたのが、
『ひかりの海図』のことであった。
クロウが手にしたその海図には、
ある島へたどり着くための道筋、光の航路が記されていた。
なのに、
その島にはいったい何があるのか、
クロウがそれを知ることは、ついぞできなかったのである。
地図や海図は単なる道しるべ。
宝の地図を手に入れたと満足する海賊はいない。
その地図を辿って宝を手に入れて、
海賊ははじめて満足するのである。
『ひかりの海図』を手に入れたにもかかわらず、
そこに記される光の航路に進むことができず、
目的となる島に上陸することができなかったクロウは、
晩年になってそのことを悔いるようになる。
航海はしても後悔はしないのが大海賊のポリシーであったし、
苦労を厭わぬのがクロウの矜持でもあった。
その大海賊クロウが、
海図だけを持って島に上陸できなかったのだから、
その無念さたるや、尋常なものではなかった。
心残りのあまり、死してなお、
怨霊となって現世に止まるキャプテン・クロウは、
歴史が流れて仲間たちが誰一人いなくなった今でも、
生前のアジトで『ひかりの海図』を守り続けるのである。
自分の遺志を継ぎ、
その海図で、光の航路を進む者が現れるまで。
カインたちがキャプテン・クロウの財宝について知ったのは、
サヴェッラ大聖堂で船乗りたちの噂話を耳にしたからだった。
別に財宝に興味を持ったわけではない。
神鳥レティスの助けを借りるために、
カインたちには『ひかりの海図』が必要だったのである。
カインたちは、レティスのチカラを借りて、
翼を持つ黒犬レオパルドを捕らえ、
暗黒神の杖を取り戻さなければならない。
クロウのアジトは、
トラペッタとリーザスを繋ぐ橋の直下に位置していた。
その橋は、
かつてドルマゲスが、
トラペッタでマスターライラスを殺害し、
サーベルト殺害のためにリーザスに向かうときに破壊した、
あの関所のある橋である。
橋の下には船でしか入れない洞窟があり、
洞窟の入り口には、最後のカギでしか開けない扉があった。
カインたちは、
今は亡き老薬師メディから預かった最後のカギで、
その扉を開けて、アジトへと侵入しようとする。
と、
そのタイミングで船がもう一隻やって来た。
船から降りてきたのは、
女盗賊ゲルダであった。
どこかで見た顔だとカインが思い出していると、
ゲルダの方も同じだったようで、
「どこかで見た顔だと思ったら、ビーナスの涙をプレゼントしてくれた親切なご一行じゃないか」
と話しかけてきた。
「ここにはキャプテン・クロウのお宝があるらしいじゃないか」
どこで情報を仕入れたのか、
ゲルダは目を輝かせている。
「あたしは、お宝って言葉に目がなくてね」
と言うゲルダは、
『海賊の宝箱』などというものが存在すれば、
高値を出してホイホイ買ってしまいそうな口ぶりである。
「海賊のお宝を手に入れるのは、早い者勝ちってことだね」
と、ひとり勇んで進むゲルダに、
旧知のヤンガスが、
「魔物も出るのに、おまえひとりでお宝まで行けるもんか」
と背中から引き止めようとする。
しかし、それで後ろ髪を引かれるゲルダでもない。
「ノロマなあんたと違うんだ。魔物なんかに見つかるもんかね」
と鼻で笑いながら、
足音を立てずに洞窟の奥へと消えていった。
盗賊にもいろいろなタイプがある。
昔馴染みのヤンガスが、力任せの山賊であったのに対し、
ゲルダは隠密であり、くノ一であった。
忍び、潜み、隠れ、やり過ごして、
戦闘をすることなく、目的のものを盗み出す。
怪盗スタイルの盗賊、
それがゲルダである。
そんなゲルダであったので、
ヤンガス達よりも先に洞窟最奥部の宝箱に辿り着くことは、
当然の結果だったと言える。
ただ、
海賊に対しても相性が良いのかと言うと、
そうではなかった。
「勝負はあたしの勝ちみたいだね。お宝はもらっていくよ!」
とゲルダが宝箱を開けると、
中から出てきたのは、キャプテン・クロウの亡霊であった。
大海賊の亡霊は、
「財宝を狙う者よ。汝はそれを手にする資格のある者か?」
と、ゲルダを襲う。
ここまで忍び走りでひっそりとやって来ていたゲルダも、
宝箱の中で待ち伏せをされていたとあれば戦わざるを得ない。
しかし、
巨大な曲刀を振りかざすクロウに対して、
ゲルダの武器は彫刻刀ほどのサイズの小刀である。
勝負になるはずもない。
ひと呼吸をする間もなく、
女盗賊は床に転がり気を失うのだった。
「弱いくせに無理しやがって!」
と駆け付けたヤンガスが言うが、
確かに威勢のわりに弱すぎる、と、
カインも思わずにはいられなかった。
さて、貧弱なくノ一がやられているところを
のんびりと眺めてばかりいるわけにもいかない。
『ひかりの海図』を求めるカインは、
クロウにその資格を示さなければならないのだ。
デーモンスピアを手に、
カインは大海賊に戦いを挑むことになる。
キャプテン・クロウとカインたちとの戦いは、
ゲルダのときとは逆の方向に一方的になった。
スーパーハイテンションからの真空波。
クロウの狙いはそれであったが、
実際にはククールがずっと冷たい笑みを浮かべていて、
テンションが下がってしまうし、
たまにスーパーハイテンションになったとしても、
うっかりゼシカに見とれてしまい、
またテンションが0に戻ってしまう。
こうしてテンションを貯めることができないまま、
カインたちの攻撃が蓄積し、
そして大海賊は、
何もしないままに降参宣言をすることになる。
「我を倒すとは見事」
見事と褒められるような戦いをしたわけではないカインだったので、
気恥ずかしく思ったものだった。
しかし、ともかくも、
資格有りと認められたカインは、
晴れて『ひかりの海図』を手にすることとなる。
「我の果たせなかった夢を叶えてくれ」
と、満足そうに姿を消した大海賊は、
どうやら成仏したようであった。
気絶していたゲルダが意識を取り戻したのは、
そのようなタイミングであった。
「チッ!みっともないところを見せちまったようだね」
と、貧弱なわりに一丁前なセリフを吐くゲルダは、
賞金稼ぎとしてのレベルはさらに低いようであった。
なんと、常識知らずなことに、
カインが手にした海図を見るなり、
「お宝ってのはその紙キレなのかい?しょっぼい!」
と、への字口をするのである。
宝の地図こそが、
トレジャーハンターたちがこぞって求めるものである。
地図だけを求めて宝を求めない愚か者もいれば、
宝だけを求めて地図を求めない愚か者もいる。
海図を「紙キレ」と思うあたり、
ゲルダは明らかに後者であり、
プロセスを経ずに結果が得られると考える、
知恵の浅い素人であった。
盗賊でありながら、
お宝探しのセンスが皆無に等しいと言わざるを得ない。
しかも腕っぷしも弱いとなると、
褒めるところがないことになる。
ついでに言うなら、
若干ツンデレ風の雰囲気を漂わせていて、
コミュニケーションが面倒そうである。
もしかすると、
宝の地図に向かって「しょっぼい!」と言うのも、
負け惜しみで心にもないことを言っているのかもしれないが、
そういうところがツンデレ風で面倒なのだ。
優男のカインでさえそう思うのが、
ゲルダという盗賊であったが、
なんと面倒なことに、
「あたしもあんたらについて行くよ」
と仲間になりたそうな顔をするではないか。
「あんたらからは、お宝の匂いがプンプンするのさ」
とゲルダは言うが、
それはあまりにも自分自身がお宝に縁がないからだと、
カインは思わずにはいられない。
ゲルダと比べれば、まだカインたちのほうが、
トレジャーハントのスキルが高いことだろう。
仲間に入りたいと言うゲルダに対して、
ヤンガスやゼシカやククールのときほど、
カインたちはすんなりとは受け容れなかった。
「遊びじゃないんだぞ!」
「あんたには聞いてないよ!」
と、ヤンガスとゲルダの言い争いが続く。
ゼシカとククールは何も言わなかったが、
カインとしては、
ヤンガスとの衝突が気になるところである。
ゲルダを受け容れた結果ヤンガスが離脱してしまう、
というような可能性を
わずかながら心配したのである。
そんな心配心や言い争いに終止符を打ったのは、
「おっさん、いつの間に!?」
というタイミングで現れたトロデ王であった。
「旅は道連れと言うじゃろ。仲間は多いほうが心強い」
単純ながら明快な答えが、そこにはあったので、
カインも異を唱えることはしなかった。
というより、
そもそも「はい」も「いいえ」も、
発言する機会がなかった。
当然である。
この団体は、カインの団体ではなく、
トロデ王の団体なのだから。
カインは、王の忠実なる側近に過ぎないのである。
こうして、
王宮を失った王宮兵士、
山を下りた山賊、
魔法が下手な魔法使い、
信仰心のない僧侶に続き、
お宝探しに無縁の盗賊が、
トロデ王の従者に加わったのだった。
ひかりの海図を携えて、
ゲルダを加えたトロデ一味の、
レティスを探す旅は続く。
ところで、
クロウのアジトがトラペッタの近くだったこともあり、
捜索に先立ち、カインたちは始まりの町で一泊をしていた。
久しぶりに夢に見たミーティア姫は、
「メディおばあさんを思い出したら急に悲しくなって」
と泣いていた。
しかし、それでも気丈に振舞おうと、
「雪を見るのははじめてでした」
と、雪国オークニスに笑顔を見せる。
「雪の中でかくれんぼをすれば、体が真っ白なミーティアが一等賞ですね」
と明るく言う姿がほほえましいものだった。
そこでカインは目を覚ましたが、
もう少しミーティアの話を聞こうと、
不思議な泉へと移動して、
白馬の姫に水をやる。
人間の姿を取り戻したミーティアは、
昔トラペッタに行こうとしたときのことを思い出していた。
「駄々をこねてトロデーンを出たミーティアに付き合って、カインも城を抜け出したでしょ。なのに夜になって森の中で迷ってしまって。怖くなってミーティアが泣き出すと、トーポがびっくりしてあなたのポケットから逃げ出して。夢中でトーポを追いかけていたら、いつの間にか城が見えてきて、無事に帰れたのよね」
トーポが不思議だと言うミーティアは、
それが不思議な偶然ではなかったことをいまだ知らない。
カインやミーティアが真実を知るのは、
まだずっと先のことである。
カイン:レベル34
プレイ時間:56時間22分、サヴェッラ大聖堂
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