ドラクエ8冒険日記(22) | カインの冒険日記

カインの冒険日記

ページをめくれば、そこには物語がある。

      読むドラゴンクエストの世界へようこそ。

登場人物
カイン……主人公。口数の少ない優男。元王宮兵士
ヤンガス……元山賊。カインをアニキと呼ぶ
ゼシカ……元アルバート家令嬢。猪突猛進
ククール……元マイエラ聖堂騎士団。キザ男
トロデ王……亡国の国王。呪いで魔物の姿にされている
ミーティア姫……トロデ王の娘。呪いで馬の姿にさせられている
トーポ……ネズミ


クラビウス……サザンビーク王

エルトリオ……クラビウスの兄
チャゴス……サザンビーク王子
ラグサット……サザンビーク大臣の子。ゼシカのフィアンセ
ドルマゲス……悪の魔法使い。トロデ王に呪いをかけた道化師

 

 

 

 

チャゴス王子が王者の儀式に旅立って以来、
心配で心配でたまらない親バカのクラビウス王は、
サザンビーク城のテラスから、
双眼鏡で街を覗き見する日々を送っていた。
クラビウス王には、
エルトリオという兄がいたが、
兄はかつて愛する人を追うために王家を飛び出し、
それ以来サザンビークには戻っていない。
もし兄エルトリオが健在であったならば、
現在クラビウスが王位についていることもなかったであろうし、
チャゴスにこのように、
ヤキモキさせられることもなかったことだろう。
エルトリオの子にこそ、
試練が待っていたはずだからである。
しかし、そんな『たられば』のIF物語は、
一国の王が考えるも詮無き事。
今はただ、チャゴスが、
兄エルトリオのように帰らぬ人とならぬよう、
クラビウスは願うばかりである。
今日こそ帰ってくるのか、
そして王子がアルゴンハートを持って来るのか、
そればかりが気になって仕方がなかった。
そんなある日、
クラビウスの双眼鏡は、
ついに帰って来たチャゴス王子を捕えることになる。
しかし、
心待ちにしていたチャゴスを見つけたにもかかわらず、
クラビウスは蒼白な顔をする。
「チャゴス……お前は何ということを……」
クラビウス王がそのとき見たのは、
チャゴス王子が、
バザーでやって来た闇商人から、
巨大なアルゴンハートを買い取っている場面であった。


チャゴス王子は、
カインたちの協力で得た大アルゴンハートよりも、
さらに巨大なものを
バザーで見つけて入手し、
ひとり喜んでいるところだった。
「皆の称賛を浴びる僕の晴れ姿を見たければ、お前も城へ来るがいい」
闇商人との取り引きをカインたちに見つかったとき、
チャゴスはふてぶてしくもそう言った。
「ただし、このことは誰にも言うなよ」
と、
父親に見られているとも知らずに、
王子はカインに念を押す。
もはや、何を言ってはいけないのかも、
カインにもわからなくなってくる。
闇商人からアルゴンハートを仕入れたことを言わないにしても、
カインたちがアルゴリザード討伐に協力したことも、
言ってはいけないのだろうか。
あるいは、リザードとの戦いの最中に、
チャゴス王子が逃げ出したことも、
言わないほうがいいのだろうか。
つい先ほどまでならば、
それらは真実であり、隠したいことでもあったが、
闇商人との取り引きの後になると、
カインたちとの冒険さえも、
真実ではなくなってくるのではないだろうか。
アルゴンハートを手に入れるために行ったことは、
闇商人との取り引きであって、
カインたちとの冒険ではない、
ということに、事実はなってしまったのではないのか。
大した努力はしていないにせよ、
その自らの行いを無にするような行動を
チャゴス王子はとっているのだ。
カインほどの優男ですら、
その虚栄心を憐れむしかなくなってくる。


城では、
「これほどのアルゴンハートは見たことがない!」
「歴代の王族の中でも、一番大きい!」
「これは相当大きなアルゴリザードを倒したのだろう!」
と事情を知らぬ兵士たちは驚くが、
クラビウス王の表情は、
怒りを通り越して悲痛であったと言える。
「これはお前が倒したリザードから得たものと神に誓えるか?」
そうクラビウスが問うたのは、
せめてチャゴスの中の良心に期待したからであったが、
それすらも裏切るのが、
目の前の自分の息子である。
「もちろんです、父上」
こうも堂々と偽りを述べる王子に、
クラビウスはもう一度手を差し伸べる。
「仮に協力者がいたとしても、お前が戦って得たのなら、わしはお前の力を認めるだろう。だが、それ以外で手に入れたのであれば認めん。いま一度問う。戦って得たのだな?」
「はい。そのとおりです!これは僕がアルゴリザードと戦って勝ち得た物です」
鼻高々な得意顔をするチャゴス王子に、
「そうか、大儀であった。お前の力の証、しかと受け取ったぞ」
と覇気なく言ったクラビウス王の虚ろな表情は、
「とても見ていられなかったぜ」
とククールが目を背けるほどであった。


クラビウス王は、
チャゴスひとりでは儀式を完遂できないことを知っている。
カインたちが協力していることも知っている。
そして、
闇商人からアルゴンハートを買ったことも知っている。
チャゴス王子を下がらせ、
ひとり絶望の心境で窓際に立っているところに、
カインたちがやって来たので、
「説明してくれ。チャゴスは王家の山には行かなかったのか?」
とクラビウスは沈痛の面持ちで尋ねた。
もしそうであったならば、
もはや救いようがない、と王は覚悟を決めたが、
カインたちの説明により、
実際に儀式にわずかながら参加し、
それなりに大きなアルゴンハートを手に入れたことを知り、
「ならば素直にそれを出せばよいのに。未熟者めが」
と、胸を撫で下ろした。
ほとんどチャゴスは何もせず、
戦いに際しては逃げ回っていたことは、
普通ならとても喜べる事情ではないのだが、
少なくともクラビウスにとっては、
喜ばしい事情であった。
闇商人からの入手よりはよほどマシだと、
クラビウス王が思ったのも当然だっただろう。
「大きさなど、わしは気にせんのに」
米粒ほどの大きさのアルゴンハートであったとしても、
クラビウスは真に喜んだことだろうというのは、
ククールが以前想像した通りのことである。
むしろ、
米粒ほどの大きさであったほうが、
よりチャゴスの力量に見合うものと納得しやすく、
今回のような疑惑を持たずに済んだことだろう。
それなのに、
不相応に巨大なアルゴンハートを持ち帰り、
しかも、それを仕入れるところを
クラビウスは目撃してしまったのだから、
信じられる要素がひとつもなくなってしまったのだ。
「こんな有様では、王位を継ぐどころか、妻をめとることすらまだ早いようだな」
クラビウス王のこの判断は、
ミーティア姫から見ればおそらく不幸な婚儀を
ひとまず先延ばしすることに繋がることだろう。
「しかし、それはチャゴスの問題だ。そなたの働きは、見事であった。約束どおり魔法の鏡はくれてやろう。ただし、それはもらっておこう」
クラビウスは、
カインたちに魔法の鏡を授ける代わりに、
チャゴスがアルゴリザードから得た宝石を受け取った。
いずれ、
チャゴスに灸をすえるときのための証拠品である。


こうしてカインたちは、
ドルマゲスを追うために必要な、
魔法の鏡を手に入れたが、
それを見た城の学者が、
「おや。この鏡は、魔力が失われていますね」
と言う。
「昔、城勤めをしていて、今は隠居して西の森に住む私の師が、魔力を戻す方法を知っているかもしれません」
と言われては、
カインたちも、
その元城勤めの師に、
会わなければならないような気になってくる。
魔力が失われていては、
ドルマゲスの幻惑を打ち払えないだろう。


その師は、
森の奥の不思議な泉の前に佇んでいた。
「ほう。こんな場所に人が来るとは珍しい」
師である老人は、
ヤンガスやトロデ王が驚いたことに、
初対面のミーティアに対して、
「やや、これはなんとお美しい。わしも城で多くの姫君を目にしてきたが、あなたほど美しい姫君は見たことがない」
と言うのである。
「なぜ、馬の姿であるのに、姫だとわかったのだ?」
というトロデの言葉に、
「馬だと?それはまことか?」
と、逆に驚いてさえいる。
老人は、目を患い、
代わりに心眼によって周りが見えるのだと言う。
心眼には美しい姫君だと映ったものが、
馬だと言われ、
それで驚いていたようだった。
老人は、そうなった経緯を尋ね、
トロデ王が、ドルマゲスの呪いだと答えた。
「おいたわしや」
老人は自分が痛いかのような顔でそう言い、
「であれば、そこの水を口になさるがいい」
と泉を指し示す。
呪いを解く不思議なチカラがある水なのだという。
言われるがままにミーティアが水をすする。

驚くべきことが起こった。
呪いを解く水を飲んだから呪いが解けた、
と言われればそのとおりなのであるが、
それが真実となったとき、
カインもトロデ王も、
「まさか本当に!?」
という心境であった。
老人の心眼に映ったとおりの姿をミーティアは取り戻し、
その美貌をほころばせ、
くっきりと大きな瞳をぱちくりとさせた。
「お父様!見てください!ミーティアは……ミーティアは人間の姿に戻りましたのよ」
嬉しそうに言うミーティアに、
トロデ王が返事をしなかったのは、
あまりに驚いた結果であり、
あまりに感動した結果でもあった。
咄嗟に言葉が出てこないほど、
トロデ王は、今見ている現実に対して、
実感を抱けずにいたのである。
そんなトロデ王の反応に、
「もしかしてお父様には見えていませんの?これはミーティアが見ている幻ですの?」
と娘が心配しかけたところで、
トロデはやっと震える声を絞り出した。
「今まで馬車なんか引かせてすまなかった。つらかったろう。これからは楽をさせてやるからのう」
そう思うのならば、
馬の姿であろうが人間の姿であろうが、
馬車など引かせずに楽をさせればよいのに、
とカインはスマイルの裏で思いもするが、
感動に水を差すようなことを言うカインではない。
トロデ王が馬車に乗らず、
自分で歩けばよいことである、
と主君に対して思っていたりもする。
そんなカインの内心に気付くべくもなく、
トロデ王は、
「わしも泉の水を飲んで、ちゃちゃっと元の凛々しい姿に戻るとするか」
と泉に駆け寄っている。
元の姿が決して凛々しい姿ではないことを
カインは知っているが、
妄想に水を差すようなことを言うカインでもない。

これでトロデ王の姿も元に戻れば、
カインたちの冒険も終わっていたかもしれない。
ドルマゲスを追っていたのも、
呪いを解くためであった。
泉の水で呪いが解けたとなれば、
ドルマゲスを追う理由の大半を失うことになる。
「姿は取り戻したが、ドルマゲスは捨て置けん。成敗してやろうぞ」
とトロデ王が言うかどうかはわからないし、
むしろドルマゲスを追うよりも、
トロデ―ンを復興させるほうに力を注ぐべきだと、
カインにも思える。
加えて、
ミーティア姫とチャゴス王子の結婚のことを
より真剣に考えなければならなくもなるだろう。
クラビウス王は婚儀を先延ばしにするような発言をしたが、
人間の姿を取り戻したミーティア側の準備は、
整ってしまうことになる。
しかし、
本当にあのチャゴス王子との結婚の手筈を進めてよいのか。
チャゴス王子を知る前のカインは、
それが真にミーティア姫の幸せに繋がると信じて止まなかったが、
今となっては、とても信じることができなくなっている。
ミーティア姫自身はチャゴス王子のことを
いったいどう思っているのだろうか、
と一兵士の身でありながら、
カインは気になってしまう。

しかし、
そのミーティアの心境を聞いてみようとカインが思った矢先、
不幸な現実がミーティアの身に襲い掛かる。
もっとも、
これこそが不幸などではなく当然の現実だったのかもしれない。
泉の水が呪いを破れたのも、
わずか5分のことでしかなかったのである。
たとえ5分であっても、
人間の姿に戻ることができたことを
むしろ幸せだと思うべきだったのかもしれない。
「よほど強力な呪いらしい。ドルマゲスとやらを倒すしかない」
と老人が言うように、
カインたちの冒険は、まだ終わらないようだった。


カインたちがこの老人を訪ねたのは、
もともとは、魔法の鏡の魔力を取り戻すためであった。
しかし、
僅かな時間とはいえ、
魔法の鏡とは無関係に呪いを解くことができ、
一度は鏡の魔力が不必要になりつつあった。
しかし、そう都合の良い話はないようで、
やはりドルマゲスの幻惑を破るために、
魔法の鏡を復活させねばならないことになる。
その方法もまた老人が知っていた。
海の魔物である海竜の、
ジゴフラッシュという輝きの呪文を鏡に受ければよい、
と老人から聞いたカインたちは、
早速船出して海竜の前で鏡を構えた。
首尾よくジゴフラッシュを鏡で受け止めたカインは、
その輝きを鏡の中に取り込むことに成功し、
魔法の鏡は、真の姿『太陽の鏡』として、
カインの手の中で生まれ変わるのだった。
こうしてカインたちは、
ついにドルマゲスを捕えるだけの準備を
整えたことになる。


その夜、
サザンビークの宿屋に泊まり、
カインはミーティア姫の夢を見た。
夢の中の姫は、人間の姿をしている。
「誰かと話したいと思っていたら、カイン、あなたが見えました。こうして夢で会えるのも、泉の水のおかげなのかしら」
そうミーティアは笑いかける。
カインは訊きそびれていたことを訪ねた。
もちろん、チャゴス王子のことである。
王子と別れた後、
ヤンガスやククールが、トロデ王にも、
「あんな王子と本気で姫を結婚させる気か?」
と散々言ったものだが、
それについてトロデ王は口を閉ざしていた。
トロデ王は一国の王として婚儀を進めようとしているのだから、
ククールのような、
聖堂騎士団を飛び出した生臭坊主とは違い、
好きや嫌いで結婚を決めたり破棄したりすることはできない。
個人と個人が契りを結ぶというよりは、
国と国が手を握ろうとしているのであり、
亡き親の遺志を継ごうとしているのであり、
盟友との約束を果たそうとしているのだ。
そんな崇高な想いと、
それによって大切な娘を犠牲にするかもしれないという思いに挟まれ、
もはや言葉が出せない、という様子でもあった。
チャゴス王子が良き人物であったならば、
万事うまく収まる話ではあるのだが、
そうでないことが明らかとなった今、
ミーティア姫の不幸な未来に対する、
最大の加害者がトロデ王になりつつあるという事情である。
崇高な想いと大切な娘は、
これまでは天秤の同じ側に乗っていたはずだが、
今は逆側に乗っていると言えるだろう。
その天秤の傾きの移ろいが、
トロデ王の口を閉ざすのだろう。
ミーティア姫は、どう思っているのだろうか。
出過ぎたことだと思いながらも、
カインは訊かずにはいられなかった。
「今はあんなでも、結婚すれば変わってくれるのかしら。ミーティアも小さい頃はすごくわがままだったし、チャゴス王子はまだ子供っぽいだけかも」
結婚をやめることなど、
微塵も考えていないであろうそのミーティア姫の言葉には、
カインも胸を打たれる思いであった。
王族に生まれていなければ、
「あんなヒト、大っキライ!結婚なんて絶対しないから!」
と言っても不思議ではない状況下でありながら、
そう言わないミーティア姫を見ると、
チャゴス王子よりも遥かに、
王族としての立場をわきまえているようにカインには思える。
ともかく、
トロデ王とミーティア姫の覚悟はわかった。
カインが仕える王家の者として相応しい覚悟である。
かくなる上は、
カインも兵士としての覚悟を持って、
チャゴス王子とミーティア姫の婚儀に対し、
ミーティア姫にとって最高の未来にするべく、
尽力するだけである。


そうして清々しい顔で目覚めたカインとは違って、
バザーで薬草を値切る大臣夫人を目撃したゼシカは、
うんざり顔をしていた。
大臣夫人は、
ゼシカのフィアンセ、ラグサットの母親であり、
つまりはゼシカの姑になるはずの人物である。
それが、
たかだか薬草を「高い!」と値切り、
「安くしないと、主人に言いつけて出店できないようにするわよ!」
と大臣の権力を傘に店主を脅しているのだ。
そんな姑がいたら、
チャゴス藁人形の横に2つ目の藁人形を並べ、
毎晩ベギラマで焼くしかなくなる。
と思うゼシカは、
早々にラグサットとの結婚をやめる決意を固めている。
ゼシカも良家の令嬢ではあるが、
ミーティアとは違って家を大切にする気質ではない。
もしゼシカがミーティアと同じ覚悟をしていたら、
そもそもアルバート家を飛び出すこともなく、
カインたちと行動を共にしていることもない。
兄サーベルトの仇討ちという、
ゼシカはゼシカなりの覚悟があって、
今ここにいるのであり、
ラグサットとの結婚には全く覚悟を持っていないのである。
人それぞれの覚悟、
ということだろう。

あとはチャゴス王子が、
何でもいいから覚悟を固めてくれれば。
国中にそう思う者は多いが、
誰よりも強くそれを願うのは、
当然ながらトロデ王の盟友、クラビウス王である。



カイン:レベル27、サザンビーク
プレイ時間:39時間43分


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