登場人物
カイン……主人公。口数の少ない優男。元王宮兵士
ヤンガス……元山賊。カインをアニキと呼ぶ
ゼシカ……元アルバート家令嬢。猪突猛進
ククール……元マイエラ聖堂騎士団。キザ男
トロデ王……亡国の国王。呪いで魔物の姿にされている
ミーティア姫……トロデ王の娘。呪いで馬の姿にさせられている
トーポ……ネズミ
イシュマウリ……月世界の住人
モリー……モンスターバトルロードのオーナー
ドルマゲス……悪の魔法使い。トロデ王に呪いをかけた道化師
カインたちは、
陸の古代船について調べるため、
滅びのトロデ―ン城に足を踏み入れる。
と、城門でさっそく、
呪いの洗礼を受けることになった。
イバラが巻き付いて、
城門が開かないのである。
カインが閉ざされた城門を押し引きするのを見て、
トロデ王がゼシカに、
「呪文でイバラを燃やしてくれんか?」
と言う。
少し前、
マイエラ修道院でオディロ院長が襲撃されたとき、
もしトロデ王が同行していたら、
同じことを言ったのだろうか、
とカインは思う。
あのときは、
鍵のかかった木の扉を前に、
ゼシカは体当たりを続けていた。
思考妨害状態にあったから、
という理由があったからであるが、
今、冷静である一行は、
メラでイバラを燃やす、
という発想ができている。
「任せておいて」
とゼシカが杖を振りかざすと、
イバラは簡単に燃え上がり、
城門を開くことができた。
もし修道院のときも同じ発想で扉を開けていれば、
とカインは考えなくもなかったが、
そういう問題でもなかったことに気付く。
確かに体当たりで扉を壊すには時間がかかったし、
もし呪文で扉を燃やしていれば、
もっと早くオディロ院長を救いに行けたことだろう。
しかし、結果的には、
扉を開けるのに手間取ったおかげで間に合わなかった、
ということではなかった。
カインたちは、
オディロ院長が存命のうちに、
ドルマゲスの前に辿り着くことができていたのだ。
間に合ったにもかかわらず、助けられなかった。
いや、
助けようとしなかった、というのが正しい表現だろう。
これもまた思考妨害状態の影響であるが、
オディロ院長が殺害されるのを
カインたちは黙って見ていたのである。
なぜ自分は何の行動もしようとしなかったのか。
あのときの苦々しい経験は、
今でも忘れられないものだった。
「美しかった我が城の、なんと荒れ果ててしまったことか」
城はイバラに覆われ、
荒れ果てた城内には魔物がはびこっている。
城門から足を進めたトロデは、
現状を目の当たりにして嘆いた。
あの日あの時あの場所での記憶は、
トロデの脳裏に鮮明に残っている。
トロデ―ンがイバラに沈んだその夜、
まだ人の姿であったトロデとミーティアは、
城のベランダから夜空を見上げていた。
そこに兵士が駆けつけ、
侵入者ありとの報告を受けたのだった。
「まさか!賊の狙いは!」
トロデ―ン城には、
鎖で縛り、魔法陣で囲い、扉を施錠して、
古来より封印し続けてきた邪悪なる杖があった。
その封印が破られるのではないかと、
トロデは顔を青くした。
封印を解かせてはならない。
トロデとミーティアは、
階段を駆け上がり、
城の最上階にある封印の間へと駆け込んだ。
そこにいたのが、
道化師姿のドルマゲスであった。
「これはこれは」
ニヤリと笑うドルマゲスは、
鎖を引きちぎって杖を握り締め、
たった今走り込んで来たトロデとミーティアに向けて、
杖のチカラを放ったのである。
一条の光線が走り、
それが直撃したトロデとミーティアは人の姿を失った。
こうして王は魔物の姿に、
姫は馬の姿になってしまったというわけだった。
しかし、
その程度のチカラで満足するドルマゲスではなかった。
「おや。思ったほどのチカラが出ない。この魔法陣のせいか」
杖の本来のチカラを解放しようと、
ドルマゲスは封印の部屋から飛び出し、
そして再び杖を掲げた。
先ほどとは比べ物にならないほどのチカラであった。
城は一瞬でイバラに包まれ、
城にいた人々は生きながらにしてイバラと化す。
あまりに強大なチカラであったので、
ドルマゲス本人の理性も吹き飛んでしまったようだった。
後に、
ドルマゲスが、所々で理に適わない行動をとる理由は、
いまだに杖のチカラを制御できていない証拠であると言えた。
こうして城も人々もイバラの呪いを受けたわけだったが、
魔法陣の上にいたトロデとミーティアは、
魔物化の弱い呪いを受けはしたものの、
城を沈めたイバラの呪いからは救われていた。
不思議だったのは、
兵士であるカインが、
魔法陣の助けを受けることなく、
唯一呪いを受けずに生き残れたことであった。
後に、トラペッタの近くの滝の洞窟で、
魚人ザバンに、
「私の呪いを受け付けぬとは、トロデ―ンの生き残りか」
と言われたほど、
呪いを受け付けない人間は珍しい存在である。
カインが呪いを受けずにいられるのは、
ある明確な理由があるのであるが、
それはこの時点では当のカインさえも知り得ない理由であった。
「アニキ!おっさんと何ふけってるでガス!」
トロデ王と同じように感慨にふけっていたカインに、
ヤンガスが声をかけてきた。
当事者の3人と、それ以外の3人に、
心の温度差があるのは当然のことである。
「船のことを調べるんでがすよ!」
そう、ここトロデ―ンに来たのは、
国を復興させるためではなく、
古代船について調べるためであったのだ。
城内では、
あの夜と変わらず、
イバラと化した動かぬ人々が、
表情のない置物のように無言で出迎える。
死んではいない様子であるのが、
まだ救いなのかもしれない。
いずれこの呪いも解き放ち、
トロデ―ンの人々を救いたいという気持ちは、
トロデにもカインにもあった。
そのためにも、
古代船を動かし、
海を渡り、
ドルマゲスを捕え、
杖を奪い返さねばならない。
船についての調査は、
何よりも先決なことだった。
いまや魔物の巣窟と化したトロデ―ン城は、
当時カインが警備していたときと、
同じようには動き回れなかったが、
一行は、なんとか城の図書室へと辿り着いた。
「では、例の船についての本を探すのじゃ」
トロデは楽観的にそう言ったが、
探すほうの身としては、
簡単なことではない。
膨大な蔵書から1冊を見つけ出すのには、
相当な苦労がある。
それも、1冊あるという確証があったときの話であり、
実際は、あるかないかもハッキリしないのだ。
「確か見たことがあったわい」
と言うならばまだしも、
トロデ自身もあるかないかを知らない様子なのが、
カインの気を重くさせた。
しかし、
兎にも角にも、
それを見つけないことには先に進めないのは確かだった。
捜索は長時間に及んだ。
図書室に入ったのは午前中であったのに、
その1冊を見つけたときには日は沈み、
中身を読み進めるうちに夜になった。
そして、
わかったことと言えば、
現在、古代船のある荒野は、昔は海だった、
ということぐらいのもの。
地殻変動で、海の底が隆起し、
海に浮かぶ船を持ち上げ、
それから長い年月が流れ、
いま荒野の古代船となった、
という歴史は確かに興味深いものであったが、
しかし、
現状を何か解決できるような情報ではない。
陸を移動できる車輪が内蔵されているとか、
プロペラが回って空を飛ぶことができる仕組みがあるとか、
隣の大陸に移動できる旅の扉が隠されているとか、
そういう情報をカインたちは求めていたのである。
海が陸になって動けなくなった船を動かすには、
今度は陸を海に変えなければならない。
そんなことができるのか。
皆が皆、そうため息をついたとき、
ちょうど月の光が照らす窓枠の影が、
壁に差し掛かった。
見覚えのある風景だった。
アスカンタの願いの丘で見たのと同じ、
月影の窓である。
カインは、窓を開いた。
中には、あの時と変わらない姿で、
月の住人イシュマウリが佇んでいた。
「月の世界へようこそ、お客人」
そう言いながらも、
イシュマウリは僅かながら驚いた顔をしていた。
「月影の窓が人の子に叶えられる願いは生涯で一度きり。再び窓が開くとは珍しい」
月の住人は、竪琴を奏でて、
「さて、いかなる願いが君たちをここへ導いたのか」
と口にした。
カインははじめ、
自分が訊かれていることに気付かなかった。
というのも、
初対面のとき、イシュマウリは、
カインの靴に話を聞いていたのだ。
人間以外の物質から記憶を引き出すチカラを
イシュマウリは持っている。
であるから、
今回も靴に訊いているのかと思っていたら、
どうやらイシュマウリはカインの顔を見ている。
靴よりも無口であるカインは、
船を動かしたい旨をたどたどしく説明することになった。
「あの船のことは知っている。再び海の腕(かいな)へと抱かせたいというのだね」
イシュマウリは頷いて、
カインたちが驚いたことに、
「それならたやすいことだ」
と言ってのけた。
「たやすいの!?」
と、イシュマウリ以外の全員が同じ表情をしていた。
大地に眠る大海原の記憶を呼び覚まし、
それを具現化して船を現在の海まで運ぶ、
というのがイシュマウリの計画であるようだった。
しかし、
理論上はたやすくとも、
具現化するもののスケールが大きいので、
奏でる楽器のほうがついてこれなくなったようで、
イシュマウリが軽く奏でただけで、
竪琴の弦が切れてしまう。
「これほど大きな仕事には、それにふさわしい大いなる楽器が必要なようだ」
と言うイシュマウリの言葉は、
原理はわからなくとも、
カインたちにも納得できる話である。
要は、
船を持ち上げるほどのチカラを出せる楽器が、
必要だということである。
イシュマウリは、
「月影のハープがあれば」
と言った。
カインたちの衣類にでもその記憶の痕跡が残っていたのか、
イシュマウリは、
「君たちが過去に会った誰かが、月影のハープと繋がっているようだ」
と言う。
こうしてカインたちは、
月影のハープを探す旅に出ることとなったのだった。
さて、
トロデ―ン城の前にいたエース・スライムのスラリンが、
カインたちの仲間になったのは、
そんな折のことであった。
パルミドの近くに、
モンスターバトルロードという魔物の格闘技場があり、
そこのオーナーであるモリーに、
カインはかつて頼まれごとをしていた。
スライムと、さまよう鎧と、プチアーノンを
連れて来てほしい、
というのである。
さまよう鎧の『ジョー』と、
プチアーノンの『プチノン』をすでに仲間にしていたカインは、
この度、スライムの『スラリン』をスカウトしたことで、
晴れてモリーの依頼を完遂することができたのである。
しかし、この依頼は、
完遂してからが本番であった。
カインは、
この依頼でオーナーのモリーに気に入られ、
通常20万ゴールドかかるというモンスターオーナーの権利を
無料にて与えられた。
自分のモンスターチームを持ち、
モンスター同士を戦わせ、
自分のチームを勝利に導くというこの格闘技場は、
富豪たちの道楽であったが、
モリーは、
世界の富豪たちよりも、
冒険者であるカインに素質を感じていたのだ。
であるから、
無料でオーナーにしてもらえた代わりに、
このバトルロードでチャンピオンを目指すことを
モリーの前でカインは誓うことになったのである。
「うむ。ボーイには期待している」
モリーは嬉しそうに言い、
モンスターチームに名前を付けるように、
カインに指示した。
カインがアイデアを出せずにいると、
「では、決めてやろう」
とモリーは言い、
「ムチムチむちむち団ではどうか?」
と提案してきた。
気の進まなさそうな顔をするカインに、
「では、ハラヒレあらくれ族ではどうだ?」
とモリーは第2提案を持ち掛けた。
その後も、モリーの提案は、
『ぷりぷりプリン隊』『ハリキリやりくり団』『続々ゾクゾク族』『快感タイタン隊』
と続いた。
とても命名を任せられないとカインは思ったが、
「では、ボーイが自分で決めるのだ」
と言われて決めたチーム名は、
『怪々カイン院(かいかいカインいん)』であった。
大いにモリーの命名センスに影響されていたのは、
言うまでもないことである。
さて、
名前はともかくとして、
こうしてカインはモンスターオーナーとなり、
新しいチームメンバーを探して仲間に引き入れながら、
バトルロードでの勝利を積み重ねていく使命が与えられた。
カインはさっそく現在のチームで、
バトルロードに挑戦してみる。
ジョー、スラリン、プチノンで構成された『怪々カイン院』は、
思いの外、と言うべきか、
当然ながら、と言うべきか、
やはりあまり強くはなく、
1回戦の『スライミーズ』にこそ辛勝できたものの、
2回戦の『人面ブラザーズ』には歯が立たなかった。
カインは、
月影のハープを探しながら、
バトルロードメンバーもまた探さなければならない。
カイン:レベル23、バトルロード闘技場
プレイ時間:27時間56分
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