そう言えば、
他にもオーブの情報に触れたことがあったのを思い出す。
そう、テドンで。
あのときは、
オルテガが落ちたと言われる火山の話ばかりに注目していたが、
冷静に振り返ると、
牢屋にあった囚人の書き置きが気になった。
テドンは滅びの町。
昼と夜ではその様相がまるで違う。
夜、囚人は生きていて、オーブを誰かに託そうとしているが、
牢の門番も生きていて、囚人は牢を出られない。
昼、門番は村と共に滅びの道を辿っているが、
囚人もまた屍と化していて、オーブを誰にも渡せない。
そこで役に立つのが最後の鍵。
かいんは、生きている門番の横の牢を堂々と解錠し、
生きている囚人に堂々と接触し、
預かり受けたグリーンオーブを持って堂々と牢を出て、
そして、テドンを後にした。
テドンを出たかいんが向かったのは、
もちろん不死鳥の台座。
パープルオーブに続き、グリーンオーブを捧げる。
これでふたつ目。
ふたつともかいんが捧げたものである。
ということは、まだサイモンはひとつもオーブを捧げていない。
かいんはまたニンマリした。
2対0でリードしている、と、そんな優越感に浸っていた。
あとひとつ、と、かいんは思った。
あとひとつで過半数、と、かいんは考えた。
過半数を取ってしまえば、サイモンに負けることはない。
まだ見ぬサイモンに対して、
かいんはライバル心をむき出しにしていた。
このリードを守り切れば勝てる。
いや、むしろ完封。いやいや、完全試合。
などと、ひとり興奮するかいんであったが、
果たしてこの試合はどういう結末を迎えるのか、
それを知る者はいない。
いや、知らない者はいない。
さて、
とにかくも、2つのオーブを捧げたかいん。
そのまま次のオーブを探しに行きたいところではあるが、
まだ3つ目のオーブの情報は得られていない。
強いて言うならイエローオーブ。
イエローオーブは宝石としての価値が高く、
あちらの富豪からこちらの富豪へと売買がなされていて、
所在が掴めないのだという。
今までの2つのオーブは、
ひとつの場所にとどまっていてくれたからよかったものの、
町から町へと流れるオーブの行方を追うのは、
骨が折れそうなことのようにかいんには思えた。
しかし、流れるオーブを追いかけることができる笛が存在する、
という話も聞いたことがある。
その笛は、やまびこの笛と呼ばれ、
オーブの近くで吹くと、やまびこが返ってくるのだという。
なるほど、確かにその笛があれば、
町を流れるイエローオーブを捕えられそうではあるものの、
笛の所在もまた謎に包まれている。
今はまだ、
やまびこの笛にもイエローオーブにも手が届かなさそうだ、
と、かいんは思った。
オーブの情報は途切れたものの、
まだ世界を開拓し終えたわけではない。
かいんは、次なる未開の地へと船頭を向けた。
以前、
田舎者をバカにしたくてしょうがない片田舎の国エジンベアで、
こういう話を聞いていた。
ずっと西に進んだところに、
スーというインデオの住む村があるという。
かいんには、「インデオ」という言葉の意味はわからなかったが、
「デオ」の中でなにかをする種族なのだろうと、予想をつけた。
「デオ」の外側でなにかをする「アウトデオ」という種族も、
きっと存在するのだろう、と、
そんな漠然とした予想をかいんはしていた。
そう考えながら船を進めていたところ、
船が到着したのは、スーではなく、
ひっそりとした祠が佇む小島であった。
祠の中には旅の扉があり、
旅の扉の向こう側には神父がいた。
神父は言う。
サイモンは、その旅の扉から追放された、と。
神父が指差す方向には、
かいんたちが使ったものとは別の旅の扉があり、
その旅の扉は、オリビアの岬と繋がっていた。
複数ある旅の扉のうち、
ひとつがオリビアの岬と神父の祠を繋ぎ、
別のひとつが神父の祠と片田舎の西の小島の祠を結んでいた。
オリビアの岬。
それは、エリックとオリビアが愛を誓い合った岬。
そして、オリビアが恨みを誓った岬でもある。
愛するエリックが海賊船にさらわれたことに耐えきれず、
オリビアは、この岬で身を投げた。
一方のエリックの乗った海賊船も、
沈没して海の藻屑となったと言われている。
こうして、かつて永遠の愛を誓い合った2人は、
今では永遠の恨みを誓い合い、
その岬に近付くものを不幸にする、
と語り継がれるようになった。
かいんは混乱していた。
サイモンが追放されたとはどういうことか。
サイモンはオーブを探しているのではなかったのか。
蘇った不死鳥とともにバラモスを倒す存在ではなかったのか。
ガイアの剣を携えて、
火山から道を開く存在ではなかったのか。
そして、追放された先がオリビアの岬だというのはどういうことか。
一度揃ったはずの、かいんの頭の中のパズルのピースが、
バラバラと崩れていった。
そんな混乱を隠せないかいんに、賢者あだむが助言する。
冷静に考えろ、かいん、と。
情報を整理しろ、と。
推理とも妄想ともつかないお前の頭の中をどうにかしろ、と。
まず、サイモンがオーブを集めているなんて誰も言っていない、と。
サイモンがバラモスを倒すとも誰も言っていない、と。
ガイアの剣を持ってはいるが、
それをサイモンが自分で使うとも言っていない、と。
確かに。
そう、サイモンがオーブを集めて不死鳥とともにバラモスを倒す、
なんてことを考えていたのは、僕の頭の中だけのことだ、
と、かいんは思うに至っていた。
さすが賢者様だ、と言うのはかいん。
賢者なんて呼ぶなよ。大賢者と呼んでくれ。と言うのはあだむ。
そんなあだむを白い目で見ているのがあべる。
何も聞いていないのがいぶ。
さてさて。
実のない話に段落をつけた4人は、
サマンオサという国に辿り着いた。
この国がサイモンの出身地だということが、
他ならぬサイモンの息子によって明らかにされた。
この国サマンオサは、
今、混沌の最中にあった。
優しかったサマンオサ王が、急に人変わりして、
悪政を敷き始めたのだという。
ブレナンという男が、
その悪政の餌食となり、
王の悪口を言ったことを理由に処刑されたのだという。
サイモンも、この悪政の手にかかり、
サマンオサを追放されたのだという。
確かに悪政だとかいんにも思えた。
しかし、その直後、
もっとかいんを憤らせる事件が起きた。
城の入り口で、王に呼ばれたと嘘をついて入城しようとし、
それを門番に看破されたのに諦めず裏の勝手口へと回り、
勝手口では、御用達の業者だと偽って不法に侵入し、
城内のあらゆる部屋を解錠して中を徘徊していたところ、
怪しい輩め、と牢に入れられてしまったのである。
牢に連行されながら、かいんはわめいた。
嘘ついて、偽って、不法侵入して、解錠して、徘徊しただけなのに!
なぜ牢屋に入れられなければならないのか!
勝手口から勝手に入って何が悪い!
これを悪政と言わずになんと言う!
わめいたり暴れたりしているのはかいんだけで、
他の3人は、納得の表情でおとなしく牢へと歩く。
それもそのはず。
かいん一行は最後の鍵を持っていて、
牢や檻に閉じ込められても、何も困らないのだから。
鍵を使って牢を脱出するかいん一行に気付いた兵士は、
しかし、それを咎めたり再逮捕したりはしなかった。
その代わりに、大きな声でひとりごとを言った。
「私は眠っている。だから、これは寝言だ。」と。
それを聞いて、かいんが吹き出す。
ぶー。この人寝言で寝言だって言ってるよー、と。
兵士は続けた。
「確かに王は変わってしまわれた。私は兵士ゆえ、王に従うしかないが、王はもうかつての王ではないように思える。この牢屋の奥に秘密の抜け道があると聞いたことがある。その抜け道を使えばあるいは。」
またかいんが吹き出した。
ぶー。この人寝言で大事なことしゃべっちゃったよー、と。
こんなバカな兵士いるんだねー、と。
笑いながら抜け道を探すかいんとひとまず距離を置き、
兵士の背中にうやうやしく頭を下げるあべるとあだむ。
あべるの一礼は感謝を表し、あだむの一礼は謝罪を表していた。
その後、2人はあきれ顔でかいんを追うのだった。
秘密の抜け道から脱出する際に、
かいんは重要な人物と出会うこととなる。
この国の、本物の王である。
王は変化の杖という、何にでも化けられる杖を持っていたのだが、
それを魔物に奪われて、
自分は地下に幽閉されてしまった、と言うのである。
変化の杖。
確か、ツンドラの島の老人が欲しがっていた杖。
サマンオサの王が持っている、と老人も言っていた。
そして、今、杖は魔物により奪われていて、
魔物は杖の力で王に変身している、
と考えるのが妥当である。
一方で、ラーの鏡というものが存在し、
その鏡には真実が映し出されるのだそう。
さらに、
現王の寝室は2階にあり、夜は寝室でひとりで寝ている、
という情報まで得ている。
ラーの鏡。
変化の杖。
ツンドラの島の老人。
沈んだ海賊船。
エリックとオリビア。
サイモン。
ガイアの剣。
火山。
ネクロゴンド。
オーブ。
不死鳥。
バラモス。
パズルのピースが揃いつつある今、
そのピースの並べ方を示すミッシングリンクを
かいんたちは見つけることができるのだろうか。
かいん(勇者・男):レベル22、HP168
あべる(商人・男):レベル23、HP162
あだむ(賢者・男):レベル13、HP103
いぶ(武闘家・女):レベル11、HP97
オーブ:パープル、グリーン

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