どんな変身をも見破ってしまうラーの鏡というものもあった。
では、
その鏡をしてその杖を映さしめれば即ち如何、とばかりに、
夜の寝室に忍び込んでサマンオサ王が持つ杖に鏡を向けるかいん。
いや、そーいうことではなく。と、あだむ。
杖ではなくて、王に向けるのです、と、あべる。
でも、鏡向けなくても、その杖持っていけばよくない?と、いぶ。
いや、僕たちは、王がニセモノである証拠が欲しいんだ、と、かいん。
でも、密室で暴いても証拠にならなくない?と、いぶ。
そうではないのです、いぶさん、と、あべる。
かいんが欲しがっているのは、自分の気持ちを後押しする証拠だ、と、あだむ。
そう、国民に示すための証拠ではないのですよ、と、あべる。
ていうか、もう状況証拠として完ペキじゃない?と、いぶ。
かいんは状況証拠だけじゃ気が済まないんだろ、と、あだむ。
見破ってから倒すのと、倒してから見破るのは違うの?と、いぶ。
結果だけ見ると同じなのですが、と、あべる。
勇者だから、らしいぜ、と、あだむ。
みんな、いくぞ!と、かいん。
ピカー、と、鏡。
見ぃたなぁ?と、魔物。
見た!王様はメタボだったんだ!と、かいん。
いや、そーいうことではなく、と、あだむ。
見ぃたなぁ?と、再び魔物。
見た!王様は薄毛だったんだ!と、かいん。
いや、そーいうことではなく、と、あだむ。
じゃ、そういうことで、と一同。
「ラリホー」「スクルト」「スクルト」「ピオリム」「バイキルト」「バイキルト」「ラリホー」「スクルト」「バイキルト」「ルカニ」「「「「たたかう」」」」「ぎょえー!!」
就寝中に叩き起こされて、
すぐに眠くなったので二度寝して、
また起きたのに三度寝してしまううちに、
ボストロールは絶命してしまっていた。
魔物の名前がボストロールであることをかいんが知るより前に。
夜が明けるのは早かった。
事実が白日のもとに晒されるのも早かった。
本物の王が地下牢から助け出されるのも早かった。
王としての仕事を始めるのも早かった。
そう、それらのすべてのことは、
かいんが魔物を倒してから、
魔物の持つ変化の杖を拾うまでの間に完了していた。
かいん一行が、
夜の寝室に侵入して、王を暗殺したことについて、
誰も咎める者はいなかった。
王の暗殺後、
自分が本物だと名乗った王こそがニセモノである、
と詮索する者もいなかった。
王が殺害されて、
殺害現場にいたかいんたちは、
罰せられるどころか、称賛を浴びた。
それほどに、民は王を憎み、
法も秩序も存在しないところまで来ていた。
そう、
国としての体を為しているのならば、
おおよそあり得ない処遇である。
クーデターでも反乱軍でもなんでもなく、
かいんは自称勇者の流れ者暗殺者だったのだから。
ところで、
魔物を倒して王を助けたのは何のためだったか。
と、あだむは振り返った。
オーブを集めているかいんにとって、
この国を救ったことに、果たしてどういう意味があるのか。
勇者だから魔物を倒すのは当然である。
そう言うとそうなのだが、
それは結果論に過ぎず、
最初から魔物だとわかっていたわけではない。
魔物の可能性を考え始めたのと、勝手口から勝手に入ったのは、
時系列としては、不法侵入のほうが先だった。
つまり、魔物を倒すために不法侵入したことにはならない。
いや、むしろ、
何の罪の意識もなく、
さも当然のごとく侵入したり徘徊したりしたのは、
王が魔物であったこととはほぼ無関係である。
今かいんが称賛を浴びているのは、
王が魔物であったという結果に助けられていると言える。
悪政と魔物を直結させることはできない。
人間だって悪政を敷くことはあるし、
今王座に戻った新王が、このままずっと善政を続けるとは限らない。
支持率がいつまでも高くあり続ける保証などどこにもないのだから。
要するに、
オーブを探している勇者の立場として、
オーブと関係ない他国の政治に入り込むのは、
やや行き過ぎとも言える。
確かに、結果的にはサマンオサに利することとなったが、
結果がすべてだ、というのは、勝った方が正義だ、
というのとなんら変わりない。
勝つ前からずっと正義であり続け、
しかも必ず勝たねばならない勇者の立場では、
結果がよかったからといって、
その過程をないがしろにすることは許されない。
あだむは、今回の行動について、
少し反省をしていた。
あだむは勇者ではないのではあるが。
もし、あの魔物がバラモスの手下なのだとしたら、
と考えるのはあべる。
魔物が王に成り変わったのはいつの頃なのか、
それを考えないわけにはいかない。
地下牢に幽閉された真の王は、
助け出されたその日から王としての仕事を始めている。
それほど衰弱しているようにも見えなかった。
幽閉されて数カ月も経っているものなのだろうか。
長く見積もっても1年程度だろうと思える。
1年前、というのは、
かいんたちがバハラタでのんびりしていた期間である。
つまり、サマンオサに異変が起きたのは、
かいん一行が冒険を始めた後、ということになる。
一方、バラモスが現れたのはいつか、というと、
オルテガがまだ旅立つ前だったわけだから、
もう10年以上前になるのかもしれない。
とすると、こういう仮説も成り立つ。
勇者オルテガを始末したのか捕えたのかわからないが、
アリアハンの人々にオルテガが帰らぬ人となったと知らしめた後、
しばらく順調に進んでいた世界征服が、
オルテガの息子かいんの旅立ちによって邪魔されていると、
そうバラモスが思ったとしても不思議はない。
サイモンの持つガイアの剣が、
自分の居城のあるネクロゴンドへの道を拓くものであると知っているならば、
その剣とサイモンをも葬ってしまいたいはず。
そこで、サイモンの母国サマンオサに刺客を送り込む。
刺客は、サマンオサ王から変化の杖を奪い、
王に成り変わってサマンオサを意のままに操り、
邪魔な存在であるサイモンを追放し、
かいんの到着を待った。
もちろん、かいんが現れなければ、
もっと時間をかけて、
もっと従順な国へと変化させ、
サマンオサの軍事力でもって、
かいん討伐に打って出ることもできる。
内陸であるとはいえ、
強力な武器を作ることができるこの国の技術力を考えると、
サマンオサを拠点に置くのは、決して悪い手ではない。
この仮説、
辻褄が合わなくもない。
しかし、だとすると、
早くサイモンを探し出さなければならない。
サマンオサ王は、幽閉後も食事をしていたかもしれないが、
追放されたサイモンも同じように無事であるとは限らない。
バラモスがかいんを煩わしく思っていることも、
バラモスがサイモンやガイアの剣を葬ろうとしていることも、
あながち間違いであるとは思えない。
と、するならば、
バラモスに辿り着くために必要なのは、
サマンオサの復興ではなく、サイモンの救出である。
では、サイモンはどこに?
絞り込めないこともない。
追放された方角、
つまり、オリビアの岬の周辺を探すべきだと思える。
あまり猶予がないかもしれない。
変化の杖が手に入ったからには、
なにかしらのいたずらがしたい、
と、いぶは思っていた。
とはいえ、
あべるやあだむが、なぜだか難しそうな表情をしているのを見て、
あまり不真面目なことも言えないような気になってきていた。
変化の杖がここにあることを教えてくれたのは、
ツンドラの島の老人。
もちろん、それは、
単にその老人が杖を欲しがっているだけのことなのだが、
老人に杖を渡しに行く、というのも、
人助けという意味では、別に間違ってはいない。
え?なんでって?
だって勇者でしょ?
勇者ってなんでもするんでしょ?
え?違うの?
でも、おじいさんが杖を欲しがってるんだよ?
杖がないと歩けないかもしれないんだよ?
それでもおじいさんを放っておくなんて、そんなの勇者じゃない!
老人が杖をどう使おうとしているのかなど、
いぶにわかるはずもないことだった。
つい今しがた、
自分がその杖で何をしようか考えていたにもかかわらず。
さて、
そんな3者の話を聞いたかいん。
何を聞いていたか、
インデオの村スーに行こうと提案する。
だって、そもそもスーに行くつもりだったのに、
間違ってこの国に来たんだし、
いんじゃない?スーで?
と、なんとも軽い調子のかいん。
その軽さを3人に非難され、
もう一度考えをあらためた。
よし、最初におじいさんだ!
杖がないとおじいさんが困る!
サイモンは後!
おじいさんじゃないんだから1人でなんとかなる!
そして、杖の代わりに老人にもらった、
何ともわからない骨を握って、
かいんの船はスーを目指すのだった。
かいん(勇者・男):レベル23、HP177
あべる(商人・男):レベル25、HP176
いぶ(武闘家・女):レベル15、HP134
あだむ(賢者・男):レベル16、HP110

にほんブログ村