かいんがこの村を訪れたのは、
ほんの気まぐれでしかない。
確かに、
ポルトガ王から依頼されたことではあった。半分は。
しかし、それを言うのであれば、
残りの半分の依頼は、黒胡椒を持ち帰ることであるので、
ここムオルまで来たことは、
ポルトガ王の意思に反している。
つまり、
バハラタから東に進むか、ポルトガに戻るか、
という二者択一の選択は、
完全にかいんの気まぐれで決まったと言ってよかった。
しかし、
ムオルに到着したかいんは、
この気まぐれが、
かいんの中に自然に湧き出した自発的な気まぐれではなく、
「定められた気まぐれ」であったことを気付くこととなった。
どういうことか。
それは、つまり、
かいんがオルテガの足取りを追っていたから。
かいんは、10年前のオルテガの足跡を辿り、
ノアニールからアッサラームを目指した。
オルテガが、魔法のカギを求めてアッサラームへ向かった、
という情報を、ノアニールで得たから。
今思うと、
ノアニールを眠りの村へと変えたエルフの呪いは、
幸か不幸か、オルテガがノアニールを発った直後に降りかかった。
もし、オルテガがあと1日ノアニールに滞在していたならば、
オルテガもまたエルフの呪いの餌食となっていたかもしれない。
仮にそうなっていたとしたら、
きっと、その当時の人々は不幸なことだと言うだろう。
確かに、バラモス討伐に旅に出た勇者が呪いで足止めされることは、
一般的には不幸なことと言える。
しかし、オルテガの消息が不明となった今から見れば、
オルテガが、
ノアニールに足止めされていたほうがよかったのではないか、
とかいんは思ったりもしている。
そうすれば、
かいんがエルフの呪いを解いたときに、
オルテガと再会できたのであるから。
アッサラームからオルテガの足跡はわからなくなった。
バハラタでは、
今まさにオルテガと対面できると勘違いしたりもしたものの、
結局はオルテガが訪れた痕跡を見つけることはできなかった。
ところが、
情報が全くなくなっていたにもかかわらず。
オルテガの足跡は完全に途絶えていたにもかかわらず。
今、かいんが気まぐれでムオルに来たことは、
偶然ではなかった。
この道こそが、
オルテガが歩いて来た道であったのだと、
ムオルに来てわかった。
オルテガの思念が、
かいんの歩く道筋を定めていたと言ってよかった。
ポカパマズ。
オルテガは、この村ではそう呼ばれていた。
はじめ、かいんは、
ムオルの村民にオルテガと間違えられた。
かいんは、自分がオルテガに似ているとは思っていなかったが、
まあ、家族以外から見たら似ているのかもしれない、
と思うことにした。
そして、
カンダタがこの村に来ても、
きっとポカパマズと言われるのだろうなぁと思ったりもした。
この村では、
強力な武器や防具が売られていた。
その中のひとつが「さばきの杖」。
いぶは、この杖を見たときに、
杖の魔力をなんとなく感じ取った。
思うが早いか、
自分のまどうしの杖を売って、そのお金でさばきの杖を買ういぶ。
後々わかったことではあるが、
このとき、いぶは大きな失敗をしていた。
まどうしの杖は自分でも使えるが、
さばきの杖は、
いぶには装備することも使うこともできなかったのである。
せめてまどうしの杖を売らずにいれば、
という後日の後悔は、
この時点で気付くはずもないことであった。
さて、
最果てのムオルまで来たことで、
かいんの東方への旅はひとまず終了となる。
黒胡椒と東の情報を持って、
晴れてポルトガへと舞い戻る。
ポルトガ王に黒胡椒を渡す段になって思い出したのだが、
実は黒胡椒の半分ぐらいは、
悪ふざけで水鉄砲に入れて、
胡椒水水合戦をしたときに使ってしまっていた。
オルテガを慕うムオルの少年ポポタと、
話が盛り上がりすぎてしまったときに、
水遊びも盛り上がりすぎてしまったのだ。
そこで、いぶが気を利かせて、
胡椒ビンにどくがの粉を補充して、
見た目はわからないようにしていた。
そして、かいんは今、
黒胡椒を献上し、
筒状に丸めたお札を使って鼻から吸い込もうとする王を尻目に、
そそくさとポルトガ城を後にした。
半分はどくがの粉なんだから、
しびれたり眠くなったりするかもしれないけど、
それは知らないということにしよう。
それと、黒胡椒の使い方が怖いのも、
見なかったことにしよう。
そう心に言い聞かせて、
黒胡椒の褒美としてすでに準備されていた船に飛び乗り、
すぐにポルトガを後にした。
船を手に入れたかいん一行。
次に行く場所はすでに決まっていた。
それは、日出ずる国ジパング。
ムオルに向かう途中の祠で、
ジパングから来たという男と会っていたので。
聞くと、
ジパングには、やまたのおろちという魔物がいて、
生贄を要求するのだという。
すぐにおろち討伐に協力しようと思ったのだが、
ジパングに渡るためには、船が必要だということがわかった。
そこで、ポルトガに戻って船をもらってから、
日出ずる島国を目指すことを決めていたのだった。
こうして、かいん一行は、黄金の国へと足を踏み入れることとなる。
かいん(勇者・男):レベル18、HP139
あだむ(戦士・男):レベル19、HP166
あべる(商人・男):レベル20、HP141
いぶ(魔法使い・女):レベル18、HP87

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