
札幌・大通の小さなカフェ。
佐伯ひかりは、ラテを前にしてため息をついていた。
「はぁ…また物価が上がってる。給料は上がらないのに」
そんなとき、向かいに座った親友の美咲が、
スマホを見せながら言った。
「ねぇひかり、最近“MMT”って聞いたことある?」
「え、なにそれ?アイドルグループ?」
美咲は吹き出した。
「違う違う。現代貨幣理論っていう経済の話。
でもね、意外と女性でもわかりやすいの。
“国はお金を発行できるから、家計とは違う”っていう考え方」
ひかりは眉をひそめた。
「国って、そんなに自由にお金を作れるの?」
「そう。税金で集めてから使うんじゃなくて、
“使ってから税金で調整する”っていう考え方なんだって」
ひかりはラテをかき混ぜながら、
なんとなく胸がざわついた。
「もしそれが本当なら…
なんで私たち、こんなに苦しいの?」
美咲は少し声を落とした。
「それを言ってる政治家もいるよ。
松田学さんって人。
“消費税はゼロにできる”って言ってる」
「ゼロ…?そんなことできるの?」
「できるって。
だって国はお金を発行できるんだから、
税金は“財源”じゃなくて“調整”なんだって」
ひかりの胸に、小さな火が灯った。
「もし本当にそうなら…
私たちの生活、もっと楽になるのに」
そのとき、カフェの入口で風が吹き込んだ。
黒いコートを着た男性が入ってきて、
店内を見渡した。
美咲が小声で言った。
「ねぇひかり…あの人、見たことない?」
ひかりは目を凝らした。
「え…苫米地英人博士…?」
テレビで見たことのある、あの独特の雰囲気。
博士は店員に軽く会釈し、
偶然にもひかりたちの隣の席に座った。
美咲がひかりの腕をつつく。
「ひかり、聞こえた?
博士、今“デジタル通貨の実験が進んでる”って電話で話してたよ」
ひかりの心臓が跳ねた。
「デジタル通貨…?」
美咲がささやく。
「そう。
“国民一人ひとりに直接お金を届ける仕組み”
“期限付きで地域に使われるお金”
そんな話をしてた」
ひかりは思わず博士の方を見た。
博士は静かにコーヒーを飲みながら、
まるで未来を見ているような目をしていた。
その瞬間、ひかりの中で何かがつながった。
MMT。
松田学の理論。
苫米地博士のデジタル通貨。
「もしかして…
私たちの生活を変える“鍵”は、
もう目の前にあるのかもしれない」
ひかりはラテを飲み干し、
静かに決意した。
「美咲、私…もっと知りたい。
“未来のお金”のこと」
美咲は微笑んだ。
「じゃあ、行こうよ。
ひかりの“経済冒険”の始まりだね」
──こうして、佐伯ひかりの“未来のお金”の旅が始まった。
後編へ続く。