料理の組み合わせを考えるとき、「同じような色の食材は相性がよい」と聞いたことがあります。
最初は料理人の経験則のように思えます。しかし調べてみると、色と味の間には、単純ではないものの興味深い科学のつながりがありました。
野菜や果物の色には、それぞれ色を生み出す物質があります。赤や紫、青にはアントシアニン、黄や橙にはカロテノイド、緑にはクロロフィルなどが代表的です。
同じ植物の仲間や似た代謝をする植物では、色素だけでなく香りや味に関係する成分にも共通点が現れる場合があります。そのため、色を手がかりに食材の組み合わせを考えることには、まったく根拠がないわけではありません。
一方、「同じ色なら味の成分も同じ」というほど単純ではありません。
例えばイチゴとマグロは、どちらも赤く見えます。しかしイチゴの赤は主にアントシアニン、マグロの赤はミオグロビンというタンパク質によるものです。同じ赤でも、その理由はまったく違います。
料理には「フードペアリング」という考え方もあります。これは、食材同士が共通する香気成分を持っていれば、意外な組み合わせでも調和することがある、という考え方です。
さらに面白いのは、私たちが料理を舌だけで味わっているわけではないことです。
色を「見る」。香りを「嗅ぐ」。舌で「味わう」。歯や舌で食感を「感じる」。
これらの情報を脳が一つにまとめて、私たちは「おいしい」と感じています。つまり料理の色は飾りではなく、これから口に入るものの味を脳が予測するための情報にもなっています。
ここで黒田チカの研究に戻ります。
黒田チカが追い続けたのは、紫根や紅花などの「色の正体」でした。
昔の人は、花や根から美しい色が取り出せることを経験的に知っていました。その色を分子の世界まで追いかけたのが、天然色素を研究した化学者たちです。
そして今度は、その色を料理人が見て、食材の組み合わせを考える。
植物が作った分子が色になり、その色を人間の目が受け取り、香りや味の予測にまでつながっていく。
「色」という一つの入口から、
植物 → 分子 → 光 → 目 → 香り → 味 → 脳 → 料理
と、ずいぶん遠くまで科学の枝が伸びていました。
料理人が経験から見つけた「この色とこの色は合いそうだ」という感覚も、科学から遠く離れたものではないのかもしれません。
ただし、色は答えではありません。
色は、まだ知らない味の組み合わせを探すための「手がかり」の一つです。
日常の中にある小さな経験則。その「なぜ?」を追いかけてみると、思いがけないところに科学が隠れています。
