教室には、誰も言葉にしない決まりがあった。
黒板にも、連絡帳にも、どこにも書かれていない。
ただ、空気の中に沈んでいるだけの決まりだ。
その決まりは、ある日突然生まれた。
誰が言い出したのかは誰も知らない。
ただ、「Tは人間の屑だ」という言葉が 空気の中に置かれた瞬間、 決まりは形を持った。
決まりを守る者たちが現れた。
彼らは理由を知らない。
理由を知らないことを、誰にも言えない。
ただ、空気を乱す者をにらみつけることで 自分の立場を守っていた。
卒業が近づいたある日、 SがTに話しかけた。
言葉にならない思いをこぼした。
その目は、涙で揺れていた。
その瞬間、 空気の番人たちは動いた。
二人の女生徒が、SとTを鋭くにらみつけた。
その目は、 「空気を乱すな」という無言の刃だった。
Sは言葉を飲み込み、 Tは涙を拭いた。
番人たちは、何事もなかったように席へ戻った。
空気は守られた。 理由は誰も知らないまま、 決まりだけが残った。
そして、卒業の日が来た。
誰もその決まりを口にしないまま、 誰も理由を知らないまま、 空気の番人たちはそれぞれの道へ散っていった。
