前に進まなければならぬという衝動に駆られ、
ひたすら森の中を進んだ。
その衝動に従ったほうがよいとは思ったものの、
恐れが胸の内から湧き出でて去ることがなかった。
ただ獣の類に出会うことはなく、蛇が一匹、
岩の上からこちらを眺めていたのを目の端で捉えることが
できた程度だった。
恐れはその衝動を覆い隠すほどに膨れ上がり、
歩きながら、私は私自身のことを思い出していた。
あらゆる面で凡庸であった私は、何ごとも達成する事が
できなかった。
それどころか、うまくいかないことがあれば、そこから
逃げ出すこともしばしばあった。
学徒の時代には思想や哲学の一端をかじると、
少し救われた気もしたが、
何の才覚もない私はそこから何も生みはしなかったし、
生まれもしなかった。
仕事もうまくいかず、自分より凡庸であると思われる
口の達者な同僚の成功を見ては、
何かがしぼんでいくのを感じた。
若い頃に見た聖者は静謐をたたえ、
その物腰には一部の曇りもないように思えた。
いつかこのように、と思ったこともあったが、
日々の生活の中でそんな気持はいつしか消え去っていった。
あるとき、貧しい人々に施しを行っていると、
いつものことだがすぐに薬や食物は底を尽きた。
隣にやってきた若い青年は従者を引き連れ、
何か誓言を述べてから、
馬車にいっぱいの荷物を施す手はずを整えていた。
今まで私に施しを受けていた者たちが、
若いバラモンの一向に群がっていくのを見ていると、
なんだかまた何かがしぼんでしまったような気がした。
そういうことの繰り返しが私の日常を埋めつくし、
しぼみきった何かが熱病におかされたごとく、
生活の一切から私を立ち去らせた。
そうして私はこの地をさ迷っていたのだということを
はっきりと思い出していた。
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