GAPのある他者の「物語」を受容する力がリーダーに求められてきた | チエでつながる, ワザでつながる、ココロでつながる、価値を生みだす           ~ 物語思考が世界をかえる

チエでつながる, ワザでつながる、ココロでつながる、価値を生みだす           ~ 物語思考が世界をかえる

この世に生まれて間もなく、人は「ものがたり」と出会い、そこで広い世界とのつながりを作ります。このblogでは、「ものがたり」と共にある人の可能性を探求していきます。

 

 

昨年(2020年)4月にIBMの社長に就任した

ジム・ホワイトハースト氏の話。

 

同氏は、1年前にIBMが買収したレッドハット社の

社長だったのですが、2008年に5億ドルだった同社の収益を

2019年に34億ドルまで成長させたという手腕を買われて、

親会社のトップに就くこととなった様です。

 

レッドハットの社長になる前、同氏は経営再建中のデルタ航空に

コンサルタントとして入っていました。

デルタ航空はピラミッド型組織で、指揮命令系統ががっちり

出来ていて、

上の命令に従業員が忠実に従う巨大組織だったと言います。

 

なので、デルタ航空の文化にすっかり慣れていた同氏が、

文化の全く異なるレッドハットに入ったときは、

相当に戸惑いがあった様です。 

 

社長になりたての頃、同氏は部下にある事の調査を指示しました。

数日後にその進捗を確認したところ、

「ああ、あれは意味がなさそうだと思ったので、やめておきました」

と、こともなげに返されて、流石に言葉を失ったと言います。

 

瞬間「何だと、上司の指示に従わないなら、辞めてもらおうか」と

思ったそうですが、間もなく部下の判断が正しかったことが分かって、

 

更に、

何故その仕事をしなければいけないかを、自分が十分説明出来て

いなかったと気づいて、同氏は考えを改めたのだそうです。

 

同氏がその後、レッドハットの強みを発揮させる経営を進め、

業績を急拡大させたことは、冒頭に書きました。

 

この話を聞いて、

なるほど多様化が進む時代に成功する経営者とは、

文化の差異を柔軟に活用していける力を

備えていないといけないのだなあ、と

とても納得できた気がしました。

 

最近日本で話題になった、オリンピック関連組織の

旧態依然の姿を見ていると

何とも絶望的な気持ちになってきます。

 

ホワイトハースト氏が秀逸なのは、慣れ親しんだピラミッド構造

の文化と全く異なる仕事文化の論理を、

自身の面子や対面の問題、また自分が信じて来た社会通念とも

切り離して、受けとめられたところです。

 

レッドハットで働く人々が日々描いている仕事世界の風景を、

自分も共有しなければ何も前に進まない、と、

社長就任間もなく、彼は気づくことができた。

だからこそ、大きな成果を上げられたのでしょう。

 

仕事風景の共有とは、表現を変えれば「物語」の共有です。

 

デルタ航空の文化が染みついていたホワイトハースト氏と、

レッドハットで働いてきた部下との間には、組織、仕事、同僚、上司

などの意味付けに大きな差があって当然です。

 

その差異は、

仕事を進める上で現れる工夫、方針、意思決定、実施などに

根本から影響しているはずです。

 

部下は上の命令に従うものだ、という発想が根付いていた人と、

意味が分からない仕事はやる必要などない、と考えている人とが

共感して協働できる関係を築くためには、

 

互いの仕事観、組織観、等を含めた経験の知(=自分の物語)の

相互理解はどうしても必要です。

そして、それを進めていくためには、リーダーの側に、

他者に歩み寄る姿勢が必要なのは、言うまでもない事です。

 

さて、日本の大企業経営者のうち一体何割が、

部下から「(命令は)意味がないと思った」と足蹴にされた局面で、

自己反省的に振舞えるのでしょう?

 

そこまで極端には行かないとしても、慣れていない仕事のやり方や

前例のない仕組みの採用に、どこまで柔軟に取り組めるのでしょう?

 

この問いは、日本企業が今後生き残る上で差し迫ったものですが、

 

そこに進む手前に、

GAPのある他者の「物語」に関心を向けることが、

そして自らそれを聞きにいく姿勢を持つことが

多くの企業リーダーに、いますぐ求められているのだと思います。