トップの「しかたない」「これくらい」が組織を腐らせる | チエでつながる, ワザでつながる、ココロでつながる、価値を生みだす           ~ 物語思考が世界をかえる

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この世に生まれて間もなく、人は「ものがたり」と出会い、そこで広い世界とのつながりを作ります。このblogでは、「ものがたり」と共にある人の可能性を探求していきます。

 

総務省の高級官僚が公務員の「倫理規定」に

違反した疑いがあると、大きなニュースになっています。

禁止されている公務上の“利害関係者”から

接待を受けた、という疑惑です。

 

今回接待した側は、総務省から放送番組の“認可”を

もらえないと、ビジネスが出来ない立場の会社です。

ですから、この会社が認可する側の意思決定者を接待して

有利な判断を得ようとするのは、企業としては合理的な行動です。

 

逆に総務省の官僚は、そんなことは百も承知のことなので、

普通であれば絶対にそんなところに出ていく訳はありません。

 

それが出かけて行ったのは、誘いを断ることが難しかった

からです。

 

接待をする側の担当者が、自分たち(官僚たち)の人事権を

実質的に握っている人物の子息だったために、あえて

倫理規定を犯して、リスクを背負いこんだものと考えられます。

 

疑惑の張本人の一人であるA氏が、国会で答弁している姿は、

あわれというか、恥ずかしいというか、全くもって不様です。

ですが、同情の余地が無いわけではありません。

 

彼の究極の選択は、殆んど地獄の様なものだからです。

彼は以下の二つの力の狭間に居たことになります。

 

①    公務員倫理規定 - 破れば最悪クビ

②    権力者(生殺与奪を握る)-逆らえば出世の可能性はゼロ

 

クビよりは出世を諦めた方が賢明ですが、②は反逆が必ず顕在化

するのに対し、①はバレなければ問題にはならない。

 

だからA氏は、①を捨てて②につきました。

A氏の立場で言うならば、勿論積極的ではなく、

「しかたない」これくらいなら」という思いだったんでしょう。

 

しかしそれがバレて、最悪シナリオになってしまいました。

 

さて、長々と書いてきましたが、A氏の様なケースはそう特殊な

話ではありません。

 

規模や悪辣さに差異はあれども、似たような話は私たちの周りに

少なからず起きていることです。

 

つまり、A氏の様な状況に置かれてしまう人は少なからずいるし、

自分だって似た状況に絶対置かれないという、保証はありません。

残念ながら、私たちが住んでいる社会には、

こうした現実が少なからずあります。

 

それが何をもたらすのか。これが今回の話のポイントです。

 

接待の場に出かけていくのが危険であることは、倫理規定など

百も承知のA氏が、分からないわけはありません。

 

だから出かけていくに当たって、何を考えるかと言えば、

万一バレても致命傷は追わずに済む“言い訳”を考えることに

なります。

 

自分が出かけて行った行動を正当化するフィクション、

つまり「ウソの物語」がここから始まってしまうのです。

 

A氏は、総務省の重要な意思決定もしているので、

「ウソの物語」は、その意思決定の一環ともなり、意思決定に

関係する周囲にも、「ウソの物語」は共有されていくことに

なります。

 

本当ではない「ウソの物語」が、組織の中の然るべき立場の

ヒトから語られていき、既成事実化してしまう。

となると、そこからは事実を「ウソ物語」に合わせなければ

ならなくなる。ウソが次のウソを生む構造が生まれていきます。

 

勿論組織の中に、おかしいなあ、と思う人は出てきます。

 

でも、そういう人の声は、意思決定して「ウソの物語」に生きる

ヒトにはあまりに都合が悪いので、つぶされていく。

それが分かっているので、大抵の人は、おかしいなあと思っても、

知らんふりを決め込むことになります。

 

そして「ウソの物語」とはなるべく関わらないようにしたり、

遠目に見ながら、噂話をする程度で地下に潜っていく。

 

これが最後にどうなるかというと、組織内部のコミュニケーションに

沢山の断絶が出来て、真実が流通しなくなっていきます。

真実を語ろうとする人々は地下に潜って、

ひそひそ話をするようになり、

 

一方「ウソの物語」を語る同士もくっつきあって、

自己防衛的に集団を拡大していくことになります。

 

科学も実証も軽んじられ、まじめな社員は組織から逃げ出し、

組織文化は根底から腐っていきます。

 

繰り返しますが、これは特殊な話ではありません。

 

トップの「しかたない」「これくらいなら」という甘い認識で

「ウソの物語」が創作され、

それがじわじわととんでもないところまで拡大・波及し、

最後は組織を腐りきらせてしまいます。

 

今回の出来事を教訓に、組織のトップは襟を正して、

わが身を振り返ってみるべきでしょう。

 

そしてもう一つ。

国を滅ぼしたくないのであれば、

官僚が②を捨てて①を選択できる仕組みに、

一刻も早く変えていかなければいけません。