ハザマランド -20ページ目

二人称

 こんばんわ。毎日、暑い日が続きますね。調子、どうですか?

 そうですか。ぼくのほうも、まぁ、いろいろあります。生きてりゃ、何かしら起きてきますよね。幸福なこと、不幸なこと、その間のようなこと。

 ここだけの話なんですけどね。ぼく、そんな毎日にふと涙が落ちていることがあるんです。たまに遭うあなただから言うですよ。情緒不安定と言ってしまえばそれまでだけど、ありませんか? そんなこと。

 そうですか。そうですよね。

 ぶっちゃけついでに言うと、こうしてあなたとしゃべるの、ぼく嫌いじゃないんですよ。むしろ好きだと思う。ぼくとあなた、お互い相手のことはほとんど知らないけれど、こうして少し立ち止まり、何てことない話をする。あなたは無口な上に聞き上手だから、ぼくは普段のぼくが驚くほどよくしゃべってるです。ホントですよ。

 アハハ。何だかとってもおかしいや。こんなときは、ぼくなんかでも生きるのもそう悪くないもんだなと思えます。

 はい。それじゃ、今日はこの辺で。

 また逢えるといいですね。

夢見る気配

 花盛りを迎えた桜の佇む広場から、かん高い声がとぎれとぎれに聞こえてくる。
 何事かと、公園のベンチに座ったまま、俺は開いた本から視線を上げた。無造作に並ぶ木々の幹。その間から落ちた花びらをかき集め、空へと放つ子供達が見えた。
 あたたかな吹雪の中で駆け回る彼らはとてもまぶしくて、自分はもう、あのように笑えはしないだろうなと、静かに口角を上げる。そしてこれは自分の覚えた何番目の笑いだろうと考える。

 薄空の下、風が吹くたび白い花びらが巣立の雛のように飛び立って、小さな疑問は答えを得ぬまま次の疑問に変わる。
 この木々が咲いて散るのは、一年のうちのどの程度なのか。

 せめてそれ以上は笑顔咲かせる日々でありたいと、開いた口からひとひら散らしてみた。
「春である」

待つ人

 天邪鬼なワタクシ、実はここしばらく待っておりました。
 ええ、元旦から数えてもう半月以上、待っていたしだいでございます。
 しかしこの半月、ワタクシがいくら待とうと、あなた様は一向にワタクシの思いにお応えなりませんでした。それどころかワタクシの意に反った行動ばかり起こしになられるご始末。
 ですから、今回に限り、ワタクシの負けということにいたしましょう。
 けれども、これだけは言わせていただきます。
 あと、たった三つでございました。
 ワタクシはあなた様ではなく、この御三方であるあなた様に負けたのでございます。
 これらの文面は、そんな奇特な御三方に進呈しているということをどうぞご理解いただきたい。
 ワタクシは待っていたのです。
 あなた様が訪れるのではなく、立ち去りゆくのを。
 ここは狭間の楽園。団体様はご遠慮いただいております。
 それでは、深夜にどこかの一室で手にした一冊をめくるよう、寂れた異界をお楽しみ下さい。

静まる気配

 師走に入っても緩みぱなしだった大気がようやく締まり出してきた。
 息が、白く色づき浮き上がる。
 温もりを求める一方で、毎年この時期になると思ってしまう。
 灰色の空を見上げ、何もかも凍えてしまえば、さぞかし静かになるだろうな、と。降り積もる雪の中、一つの像となった世界では悲痛さえ凍えてしまうに違いない。
 感傷だ。
 半端に描いた思いは言葉でさえもろく、結晶と化すにはほど遠い。
 寒さがさらに増してきた。
 手袋を忘れてしまったので、既に両手が悴(かじか)んできている。重ねた両手を口元へ持ち上げ、熱い息を吐き出した後、白くつぶやいた。
「冬である」

墓穴

 昨日はリアル声明文を綴るつもりが、何故かプチホラーみたいな結末になってしまった。
 まったくサービス精神旺盛なのも考えものである。
 今日こそは非日常でない、穏やかで、下手すればあくびが出るような記事を投稿してみたいと思う。
 娯楽性など皆無で、新着で迷い込んでしまった一見さんなんかは思わず舌打ちしたくなるような記事。朝顔の観察日記にも劣らぬ退屈ぶりを披露した記事。
 さて、どうするか……

 いかん。いかんいかんいかん。考えては緩急のついた記事ができあがってしまう。平行線。どこまでいっても平行線のような記事にしないと駄目なんだ。あー、また考えている。駄目なんだって考えちゃ、無心、空っぽ、禅の境地だ。
って、記事そのものが考えてできるものなのに、考えない記事って……ありえなくね? 
 くそっ、これが策士策に溺れる。ミイラ取りがミイラ。はめるつもりがはめられて、気づけば大黒柱のお父ちゃん! ってやつか。
 ちくしょう! てめぇ、なかなかやるじゃねぇか。今日は油断しちまったがな。次はこうはいかねぇぞ。覚えてやがれ!


 あー、またやっちまった。

二人言 

 目覚めシリーズをちょっと休憩して、久方ぶりのリアル声明文。
 まぁ、記事の中でもちょくちょく書いているようにあまり訪れる人のいないブログなので、フィクションだろうが頭にノンが付いてろうがたいした違いはないと思われます。
 さて、何を書きましょう。
 一応、記事の左にあったカウンターとアメブロ内のアクセス解析が噛み合ってないことを記事にしようと思っていたのですが、どうでもよくなってきました。
と、いうかこんな短い文章の中で既に二回、訪問の事を書いてることが何ともうざったい。


 まったく、てめぇは気のないフリをしてちょっかいを出す思春期生命体。別名チェリーボーイか!!


 ……ん? あれ? 私、今、何か言いましたか? たまにこうして記憶が飛んだりするんですよ。なぜなんでしょうね? 
 まぁ、そんな訳でカウンターを撤去しようと思うんですが、最後なんでちょっと語っちゃってもいいですかね。
 そもそも日記に読者がつくという状況。これって考え方によっては、かなり怖くありません? 私の場合、ブログといっても投稿している記事のほとんどは小説の修行をかねたフィクションもので埋められてますけど、ほかの方はそれこそノンフィクション街道を驀進してて、何の技も加えず、こうまで自分をさらけ出して恥ずかしくないのかと、誰もあなたの日常など興味はありませんよと、私は思ったりしてしまうわけなんですよ。何と言いますか、最近ではこの世に産まれて育つはずの恥じる心というものが、まったくというほど芽吹いてなくて……


 だから!! ウゼェんだよ! ぐだぐだ言ってるお前が一番恥知らずだって、いい加減気づけ!!


 ……あっ、また。またです。今日はいつも以上に記憶が飛ぶなぁ。体もなんとなくだるいし、ここニ、三日でいきなり冷え込んだものだから、風邪でも引いてしまったかもしれません。
 すいません。何だか、ほんの少ししか話せませんでしたけど、今日はこの辺でおいとまさせていただきます。本当に申し訳ありません。

 でもお互い、恥じる心だけは、本当に、持ち続けたいものですよねぇ。

秋触れ、秋嗅ぎ、秋聞いて

 昼、玄関を出ると、涼やかな風が甘くとろける匂いを運んできた。

 匂いの元は……

 風の訪問先に視線を向けると、オレンジの小さな花がこんもり深緑の中で色めいている。

 金木犀。

 とてもいい匂いだが、嗅ぎ過ぎると鼻腔が爛れそう気がするので、私は毎年、この花の側に長居はしない。

 でも、好きだ。


 深夜、久しぶりに雨が降った。

 秋の夜長の静かな雫。人知れず、落ちる白線をカーテンの内側で一人思い描いてみたりする。

 

 少しでも手早くブログの記事投稿を済まそうとキーボードを打っていたら、今日はこんな文体になってしまった。

 そういえば元々ブログって日記を書くものなんだよな。

 そんな当たり前のことを思いながら布団に入る。

 窓の外の子守唄のおかげで今夜はいつも以上に眠れそうである。

撮れぬもの

 彼はおかしな写真家です。

 ことあるごとにいつも同じ台詞を放ちます。

「俺は風が撮りたい」と。

 景色を留めてなんぼの写真で、動いてなんぼの風を撮る。

 おかしなことです。けれども不可能ということもない。

 そよぐ草原に、浮き立つ黒髪。風が何かを動かした瞬間。人が見て、あぁ風が吹いてるなと思える瞬間を撮るのは可能ですから。

 けれども彼はまた言います。

「間接じゃない。俺は直接、風を撮りたいんだ」

 本当に、おかしな人です。

 羽ばたく翼に、駆けるスポーツ選手。昇る風船に、落ちる枯葉。

 風が吹くたび彼はシャッターを切ります。そしてつぶやきます。

「違う。違う違う、これは風じゃない」

 おかしさを通り越して、憐れな人かもしれません。

 そんな彼がある日、山中で自分の胴ほどある横穴を見つけました。近づくと冷えた風が吹いてきます。

 風穴(ふうけつ)でした。

 彼はすぐさまカメラを取り出し構えます。しかしそれはこれまでのどの風よりも風らしくない風でした。ファインダーから見えるのはただの暗い穴。間接的なものがどこにもない。

「やっぱり風を撮るなど無理なのか」

 軽く奥歯を噛み締めながらこぼしたものの、顔に近づけたカメラはそう簡単に離せるものではありません。

 今一度、彼がファインダーを覗くことに意識を向けたとき、風穴の中で影が一つ動きました。左右に揺れながらそれは彼へ近づいてきます。その身に外の光が触れ、影が剥がれたところで、彼のカメラを握る手がかすかに震えました。

「……マムシ」

 口内で溢れた唾液を飲み下し、彼はさらに身構えます。

 なぜだか蛇は敵意剥き出しで、ちろちろと舌を出しながら、彼を睨み付けているのです。そしてゆっくりと頭を掲げ、前身を大きく引いたと思ったとたん、飛び掛ってきました。

 よける。

 それ以外できませんでした。打ち倒す、しゃがむ、逃げ出す。考えればいくらでも対処方法はあったかもしれませんが、そんな時間など蛇は与えてくれず、動くことだけが唯一の手段でした。

 蛇は彼の右頬数ミリ横を飛び抜いて消えました。

 後日、出来上がった写真は全てボケたものでした。連射設定にしていたものの、シャッターを押したことでさえ気づいていなかった彼は、自分に向けてカメラが作動したことを後から理解したのです。

 その中でなんとか見れる写真は二枚だけ。

 ぶさいくに怯える自分と、ぶれた背景を取り込んで竜に見える蛇。

「これも違う。けれども『あり』ではある」

 おかしな彼は今日も風の中で動いています。

切なる気配

 このところなかなか言葉が浮上せず、壊れた洗濯機のように回り続けている。
 少し浮いたと思えば、そろそろ炬燵を出そうかな。と、何ら面白みのないため息のようなものがもれるだけ。
 元気がないわけではないのだが、溢れるにはほど遠く、静かな、静かな日々を過ごしている。
 それでも止まってはいないのだから、吐き出す息が白く染まらぬ内に、せめて顔上げ空へと放つ。
「秋である」

猫の目

 黄緑に色付いた稲穂が頭(こうべ)を垂れ始め、夜の風が冷たさを増している。

 季節がまた一つ、移ろいでゆく。

 俺は小さな旅に出た。

 列車に揺られたどり着いたのは、最近増えているであろう寂れた商店街。左右に並ぶ店の間をポケットに手を入れながら黙々と歩く。日曜の正午を回ったばかりというのに人気はほとんどなく、日の光を長々と続くアーケードが遮るため、陰気な空気に拍車が掛かってしまっている。歩くたびに見かける店主達もどことなく覇気がない。それに皆、一人だけの店番だ。こうも客足が途絶えがちでは人を雇う必要もないのだろう。

 かといって、自分一人に何がどうこうできるものでもなく、微かな居た堪れなさを抱きつつ、歩みを進める。

 閉まったシャッターを眺め、一週間も経てばまた一つ増えるかもな。と、思ったところで、店と店の間の狭い隙間にブロック塀と一匹の黒猫を見つけた。

 あちらはまだ気づいておらず、灰色の石材に尻をつけたまま、これから俺が向かおうとしている通りの先をじっと眺めている。

 何となく目が離せぬまま、道の端で歩みを進め、猫の真横10メートルまで近づいたところで、じっと見つめる対象が俺に移った。

 そこでようやく歩みを止め、同じようにじっと見つめ返してみた。

 瞬きをしない猫だった。少なくともこちらが見つめている間は一度も瞼が下りなかった。

 魚のような猫だなと思いながら、冗談交じりに聞いてみた。

「この辺は、もう駄目かい? 」

 返事はなく、無言の眼差しだけが返ってきた。

 当然だ。俺は何をやっているのか。だけど何か言わないと、薄暗さの中、丸く成りかけている瞳孔に吸い込まれそうな気がしたのだ。

 だから先に視線を逸らした。そのまま振り返らずに商店街を抜けた。

 眼差しはしばらく背中に張り付いていた。