交差点を曲がった瞬間


私はあの夏とすれ違った


小学生のプールの授業


着替えるのも泳ぎが苦手なのも


恥ずかしかった


少しの憂鬱とそれを隠す緊張


いつもの授業と違う特別感


十数年ぶりの再会


胸がきゅっと締まる


高揚感か追憶か


鼓膜の向こうで声がする


あの子の声が


もう二度と会えない彼らの声が


言葉は聞き取れず


ただ声色だけはハッキリと




振り返ると何もいなかった


消えそうな晩夏が微笑むだけ


私は来年この街を出る


それを前に


最後に夏がくれたのか


いつか


いつか胸を張れるだろうか


彼らに


そしてあの時の私に


朧げな記憶と別れを告げ


晩夏に微笑み返し


胸の奥でつぶやいた


ありがとう


って

花に水を注いだ


ハトに道を譲った


家から出られなくなったクモを逃した


落とし物を持ち主に届けた


迷っていた人に道を教えた


友人の悩み相談に数時間のった


私は優しかった


とても優しかった


これは


偽善


歪んだ振る舞い


今にも泣き出したくて


全てを投げ出したくて


自分を諦めたくて


終わらせたくて


潰れそうな心を支える


ちっぽけなプライドの具現化


そのための行い


優しさなんて呼べない


包み込まれた醜い慈愛の正体


人を見下し蔑み嘲笑う


なんら変わらない


呪い恨み憎しみ殺意


全く同じ偽善というもの


理解されない破壊衝動


受け入れられない希死念慮


すべて


すべて


覆い隠すための善


早く


早く夜になってくれ


何もかもが見えなくなる暗闇を


孤独だけをプレゼントして


何もかもを奪っていく暗闇を


私がこれ以上間違えるその前に

「愛してる」

 

そっと口にしてみる

 

乾いた響き

 

熱さも冷たさもないコトバ

 

「愛してる」

 

じめっと蒸し暑い空気

 

ひんやり肌を撫でる夜風

 

「あいし…」

 

「愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる」

 

そこには何も存在しない

 

声帯を通して口から発せられる音の羅列

 

形にも残らず心にも届かず

 

ただ消えていくだけのものども

 

湿度を

 

熱を

 

込めて

 

心からの言葉を

 

ただ

 

ゆっくりと吐く息のように

 

全身の力を抜いて

 

こぼした

 

 

 

 

 

「愛して。」

お花が咲いていた

 

ただそこに咲いていた

 

その花には毒があった

 

それは花にとって必要な成分

 

芋虫や鹿から身を守るための鎧

 

その花は鮮やかな色をしていた

 

それは花にとって大事な色

 

花粉を運んでもらいうための目印

 

ヒトはその鮮やかな色を愛していた

 

摘んで花飾りを作った

 

素敵な花言葉のついた贈り物だった

 

ヒトが食べた

 

何も調べずその花を食べた

 

ヒトは倒れた

 

毒があるから当り前に倒れた

 

ヒトは死ななかった

 

花の毒は鎧であり武器ではなかった

 

ヒトは忌み嫌った

 

曰く、その花は人を殺すためのものだと

 

曰く、その花の色は毒々しく世を乱すと

 

曰く、その花は死神に魅入られたものだと

 

曰く、その花は生れ落ちるべきではなかったと

 

花は駆除された

 

ヒトを害する花は敵であった

 

花は燃やされた

 

飾ることは不謹慎とされた

 

花言葉は変わった

 

綺麗な見た目をして本性は醜いとされた

 

ただそこに静かに咲いていた花

 

食べないでねと伝えたかっただけの花

 

蝶や鳥とともに風に揺れたかっただけの花

 

ヒトに見つからなければ

 

ヒトに食べられなければ

 

ヒトがエゴにまみれていなければ

 

花は絶えた

 

種も記憶も残らず絶えた

 

思い違いと過言と妄信と憶測で絶えた

 

ヒトが絶やした

小さな灯火がともった

 

それが唯一の光だった

 

道しるべにもならないほどの

 

足元をやっと照らす明かり

 

でもそれだけが縋れる藁だった

 

一歩

 

また一歩

 

慎重に次の一歩だけを見て

 

間違えて戻ってやり直す

 

何かを失い続けながら

 

涙を堪え目をつぶる

 

その繰り返し

 

どこに向かっているのか

 

終わりはあるのか

 

終わりの先はあるのか

 

終わりの先の終わりはあるのか

 

そんなことより次の一歩

 

繰り返して

 

繰り返して

 

そんな僕を見て友人は言った

 

「公園のど真ん中でなにやってるんだ」と

 

「そこに絶対的な道はないし

 

昼間にランタンは意味ないだろ」と

 

時と空間を同じくしても

 

僕と彼は同じ世界にはいなかった

 

 

午後5:00


ベンチに座る


誰もいない森の中


古びたベンチはだれの遺産か


ゆったり空気に溶けていく


周りの空気をめいっぱい


入れて、出して


自分に取り込み一体化


だんだん自分がなくなって


輪郭を失いかけて…


ん?


やらかい輪郭が少し固くなる


かゆい


輪郭が戻ってく


小さい虫が輪郭を取り戻す


帰ろう


森を抜けて電車へ


1時間後にはいつもの家に


そうして僕は街に溶けていく

声がした


後ろから雪の中を走って僕を呼び止める声


前から暑い日の鍋も美味しいんだと語る声


隣で幾度となく聞いた笑い声




声がした


もう失った声がした




人は声から忘れるらしい


君の声は


世界で一番大好きだった声は


まだ僕の鼓膜を幻想の中で震わせる


また春が終わる


君と共に去って行った春が終わる


君と出会った春が終わる




声がする


ただそれだけのことが


どれほど僕を強くしていたのか


気づいた時には手遅れだった


今はただ思い出の中で記憶の中で


伸ばしては空を切る手で君をかき集める




声がした


君を思い出しては


カタチのないものを抱きしめて


溺れるように呼吸が浅くなる僕を叱る声


優しく仕方ないなぁと困ったように微笑む声




いつか


その声を忘れるのだろうか


記録がないと思い出せなくなるのだろうか


思い出す度に君の声が


本物か記憶の中で改変してしまったものか


不安になる


忘れたくない


僕の人生でたった1度だけ


心から愛した君の声を


僕は忘れたくない

もう 朝は来ない


私が望んでいた朝が沈んでいく


地平線を目指し海を彷徨い


この手で迎えに行こうと決めた朝が


顔も出さずに沈んでいく


どこまで来たのだろう


見渡す限りに陸は無く


細切れの息継ぎには慣れてしまった


このまま体力が尽き


溺れて終わるのか


いっそあぶくになれたなら


ここに馴染めるのか


サカナ達は不審者を遠巻きに観察し


ヒソヒソと話しては去っていく


冷たい海には溶けることもできず


間髪入れず来る波に襲われる


奪われ続ける感情と体温を守ろうと


心とは裏腹に体は必死に生きようとしている


もういい


もういいよ


心はとうに諦観を持ち始めているのに


なぜ楽に諦めさせてくれないのか


体は朝を望んでいる


太陽に照らされた温かな海を望んでいる


心は終止符を望んでいる


もう頑張ったと理由を並べ


この渇きに期待に切望に


そして失望と絶望に


涙を流す時間を望んでいる

愛を語る化け物がいた


あなたは愛されている


あなたが生きた軌跡は全て祝福されている


あなたの世界はまるで愛のキャンディ


一見硬くて辛いけど


実は甘くてとても素敵なもの


なぜなら私たちには愛があるから。


愛とは目に見えないもの


愛とは熱を帯びあたたかなもの


愛とはとても細やかなもの


愛とは粒子


愛とは空気


愛とは栄養


愛とは 愛とは 愛とは


この世を満たすもの


ラブソングを歌いましょう


全ては世界の愛を理解するため


そしてこの世の全ての愛を認めた時


あなたは愛そのものとなるのです


我々のような気づけぬ愛に悲しむ存在を


優しく赦し包み込む存在になるのです


それはとても素晴らしいこと


人々に崇められるようなこと


あなたも愛を知りましょう


あなたも愛となりましょう


私たちを救い導く


そう


それは


まるで


神


のような

あったかいなぁ


真冬の空が広がる下


「寒空の下」なんて誰が言い出したんだろう


僕は今こんなにもあったかいのに


喉から熱を帯びていく身体は


感覚がふわふわと


夢のように揺れている


誰の足音も聞こえない


風がただ木々をざわめかせる


そんなに祝福しないでおくれ


少しばかり恥ずかしくなる


ずっと思い描いていたことがやっと叶う


この世界を飛び出して


別の世界へ旅立つ


目に写るのは昼に散る星の輝き


肌で感じるのは春に爆ぜる凍雲の純白


あぁやっと終わりを迎える


そしてきっと始まりが僕を待っている


今行くよ僕の僕だけの僕のための天国へ