小説「笑み」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

業務連絡なんだから全員に回せ!こんな簡単なことを、しない奴が多い。
最低な職場だ、最悪な職場だ、人間が悪すぎる。

システム変更に関する業務連絡が私にだけ回ってこなかった。
結果として私はミスを犯し、主任級に散々叱責されたのだが。
私はその事を知らなかったのだ。知らなかったと言ったら、
「知らないで済むか、ボケ。」
と更ににけなされた。

誰かの思惑で私の中の所に来るはずの情報がストップしたんだ。

原因は分からないでもない。誰か私を嫌いな奴がいる。そいつの所で情報が止まった。分かりやすい原因と結果だ。
誰か私を嫌いな奴がいる。私にだけ不利を働こうとした奴がいる。

最低な職場だ、人間が、最低な職場だ。

私は憤慨しても憤るだけ無駄な一日の終わりを、何をもってしても慰める術も見いだせず、空き缶が落ちていたら蹴っ飛ばしたろう、やさぐれて、家に帰る途中。

通りすがりの車の運転手の顔を見る。
その人は笑っていた。

佳い顔をしていた、好い表情だった。その人は。
にやにやするのでなく、げらげらするのでなく、つまり、微笑んでいた。美しい笑みだ。

希望と失望がない交ぜになった好い顔だった。
よく使い込んだ布巾の様な笑顔だった。その運転手は笑っていた。

メーカーは分からない、紺色のワンボックスカー、信号が赤になる前に駆け抜けていった、警察。

その人は笑っていた、いや、笑うのよりももっと好い顔だった。

そこで私は、自分の頭骨の上の筋肉が、皆下向きになっていたことに、気付いた。