カラスノエンドウが、食べられると聞いてて、野に出でて、摘み取ってみたれば、確かにおまめの匂い。
私は一くさのカラスノエンドウ、しばし鼻に留めておいて、しゃがんだまま、風の通り抜けていく音を確かめる。
てん、てん、てん、
風はなにも残さず通りすぎていく、当たり前だ、枝は揺れていないもの、風なんて吹いて居ないもの。
私は風の無い野に出でて、ああ、匂いが春を連れていく、そう嘆く声を訊く。野に満ちた春を、既に連れ去っていく四月の陽気。
野蒜を摘んで口に運ぶ。なるほど、ニラ臭い。
さっきのカラスノエンドウも食べてみる。青臭い。そして、苦い。春の青菜は苦くさい。
ああ、この、草いきれ。
ハコベが食べられると聞き、摘み取って、匂いを嗅いでみるに、確かにそこらの草よりは野菜の香り。
私はしばし、ハコベの香りを自分の体で確かめる。土の栄養を吸い上げて生えてくる。この、小さな草の群れ。
私は春になると若菜を食い漁る。
芽吹くものを食い漁る、呪いの意味を込めて。
芽吹くものを食い散らす、恨みの意味を込めて。
芽吹くものを食い貯める、祝いの意味を込めて。
命の儀式、春の食事。芽吹き出でるものに、嫉妬する私は、自分こそそうでありたい私は、春の野に出でて新しい芽にかじりつく。
哀しみに導かれて、希望を棄てきれなくて。