小説「引力」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

ニュートンは発見したが理由までは教えてくれなかった。
因みに今でもどうしてなのかは分からないのだと言う。それはただそこにある。何故なのか、誰も知らない。

我々がなぜ引き合っているのか、その訳を誰も解明出来ないのだそうだ。私たちはお互いに引き合っている。

そして、引かれあっている。

その訳はこの世に存在していない、まだ、存在していない。
例えば私はその人に強く惹かれた、その訳が、分からないのと同じように、星と星が互いを引っ張りあっている訳も分からないのだそうだ。

しかも私たちはお互いに引っ張り合いながらお互いを遠ざけようともしている。
青い陽が暮れていく午後6時に、さっき飲んだコーヒーの匂いが口のなかにまだ。そしてこれから食事の支度をする。
私はベランダに立って吹き抜けていく風さえもさっきの太陽に引かれているのかと考える。

私にはその訳は分からないけど、流しの下から包丁を取り出しながら、そんなことをしながらでも貴方の事を考えている。何時いかなるときも考えている。
でも、その訳は分からない。

しかも私は貴方を遠ざけようともしている。訳が分からない。

私は貴方に惹かれていて、私たちはお互いに引き合っていて、そして動かしがたくお互いを遠ざけている。私はまな板の上の白菜を大きく刻む。そんなことをしながらでも私は貴方を想っているのに。

遠ざける力の方が強くはたらいたので私は今ここにいる。
ニュートンには解明できない。私もきっと、死ぬまでこの理由が分からない。