病みついて入院したままの友人を見舞う。
もう3ヶ月も病院に入ったままだ、出られないのだ。
「仕事は辞めてしまったわ、昨日、事務の人が来てくれたの。こんな状態でずるずるいられても困るって。」
額の生え際にひっそりと汗を並べながら、彼女は多少荒い息をして、起き上がろうとした。
「止しなよ、寝てなよ。」
と私はあわてて止めた。でも、せっかく来てくれたんだから、と、入院着の前を合わせながら、ベッドの上に体を起こしたのだった。腕に点滴の針が刺さっている。
もともとはふっくらした人だったのに、一回り痩せてしまったように見えた。その、腕が。老けたような若やいだような顔をしているのは、髪の毛をまとめていないからかもしれない。
「じゃあこれお見舞い。」
私は持ってきた紙袋からスープジャーを取り出して、彼女のサイドテーブルに置いた。
「自家製ヨーグルト。砂糖入ってないから口がすっきりするよ。」
「ありがとう。その下の冷蔵庫、お茶が入っているから好きに飲んでね。」
「大丈夫、気にしないで。でも飲みたかったらついだげようか?」
「ううん、私もいい。」
こんな若さで起きる症状ではない、と医者が困っている、と他の友達から聞いていた。
高齢者に時おりみられるものだそうだ。原因不明の微熱が長期間続き、解熱の効果がなく、ひたすら体力を搾り取られて最後には死んでしまう。
そんな病気なのだそうだ。彼女ももう3ヶ月、熱が続いたまま下がらないでいた。
まさか、死んでしまったりはしないだろう。
私はその可能性について怖気をふるった。私と同いどしの、高校からの友人である彼女が死んでしまうなんて。
それは、この人と共有した私の人生の過去も一緒に死滅してしまうような、恐怖だった。
背すじが冷える。
「熱はずっと下がらないの?」
当たり前のことしか、尋ねられない。
「うん、ずっと下がらないのよ。」
と彼女は嬉しそうに言った。
「何喜んでんの。」
「下がるはずがないもの。」
とうっとりと笑っている。
「大丈夫よ。先進国の医療をなめちゃ行けません。今は辛いと思うけど、そのうち何か薬とか、ね。」
と私は言ったのだが、友達はふふ、と笑って、
「恋わずらいだもの。」
と言った。
「え。」
「うそ。そんなわけないでしょ。でも、このまま冷めずに死んでしまえたら、私は私で幸せだわ。」
彼女は熱と戦ううちに、私とは違う所を見るようになったのか。
私は彼女の死をあんなに恐れたのに、このまま死んでも幸せだなんて。
「好きなひとがいるの。」
「そうなの。」
しにたいくらい。と言って、彼女は幸福そうに笑った。