小説「あたたかなくすり」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

「はい、こんな時に効く薬。」
と言って、私はマグカップを友達に渡した。寒い日にはこれに限る。心が寒い日にもこれに限る。
ありがとう、と言って、それでもまだ浮かない顔をしている友達は、にっこりと笑った。笑った顔が妙に優しいので、私は哀しく感じた。
 
私はココアにブランデーを入れるのが好きだ。疲れた日にはあったかいココアにブランデーをたっぷり入れて、寝る前に呑む。
体が温まって気分が良くなるし、香りが良い。ココアじゃなくて板チョコをミルクに溶かしたホットチョコレートで作ることもある。
とにかく私は今夜、その友達に
「薬。」
と言ってあったかいココアを作ってあげたのだった。報われない恋をして傷ついている気の毒な友達に。
 
「あつい。」
マグカップに一口口を付けた友達は言った。
「でも濃くて美味しい。」
「ここぞとばかりにブランデーをケチらないことがポイントなの。」
と私は説明する。これは薬だ。心と体をあたためてくれる。
 
友達は心も体も冷え切っていた。彼女が請い慕っている人が居るんだけど、あんまりにも見込みの無い思いをしているからだ。
こんなからっ風の吹く真冬日に、報われない恋をしているというのは、あまりにも気の毒だと私は思う。
 
だから彼女を呼んであげて、私は薬をふるまっている。
「これであったまってくださいな。」
と言うと、彼女はまだ悲しそうな顔をしているけど、その頬が少し赤らんできたのだった。
 
その彼は工業デザインの世界ではかなり有名なデザイナーで、とにかく仕事に追われている
、というか、舞い込むままに仕事を取り入れている。
デザインすることが、好きなのである。自分の世界を表現することが、そのことだけが、好きなのである。
 
友達は彼と同じ学校の出身で、長い間請い焦がれているのだが、そういう、自分の世界から出たがらない相手なので、よって報われない思いをずっと続けているのである。
 
私は気の毒に思う以上に、彼女の心を称える。その孤独を。その勇気を。
だから時にはあたたかい薬が必要なのだ。一人きりで夜を耐えるためにも。
私がそう言ったら、
 
今夜はあなたが居てくれるから、それだけでも十分だわ、と言って、赤い頬をして、やっぱり悲しそうに笑った。