小説「青いカラス」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

曇り空だ。
大抵曇り空ばかりだ。その中を、青いカラスが羽ばたいていく。

そんな錯覚を得るように、空は偶さかにしか姿を顕さない。
雲間から顕れるとき青空は小さくて、カラスが飛ぶのとまるで同じだ。

曇り空の中を、青いカラスが風に乗るのを私は見ている。
脚も嘴も、勿論翼も青いカラスは、灰色の雲が一面に鬱いだ中を、そこだけ光を放って飛んでいく。

青いカラスを見付けると、私は昔の事を思い出す。
良かった事も、辛かったことも思い出す。この町は大抵曇り空だ。
この曇り空の下で起きた様々な事を思い出す。

思い出す。私は知る。私は曇り空を見上げている。
青いカラスが灰色の下を舞う。

いつの間にか、全ての事は過去に成ったのだ。あんなに辛かったことも、あれだけウレシかった事も。
今では、全て過去なのだと。私は過ぎた時間を思う。何もかもが過去に成ったのだと。

そして私は天駆ける青いカラスを見ている。
暗く鬱いだ空の中、青いカラスは電線に休息を見いだした。羽ばたきが、止まった。

それでも私は生きていく、と私は考える。

全てが無かったことに成っても、誰を喪っても、自分が丸切り変わってしまっても。

青いカラスは私の予兆だ。あれが顕れるとき、私は自分が、また変化の時を待っているのだ、と、知る。

曇り空から空が覗くとき、私には変化が訪れる、と知る。