長編お話「普遍的なアリス」の17 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

私は絶対に断らないのに、信行はするまえに必ず、
「今日は、良い?」
と私を試す。私は一度も断ったことが無い。だからわざわざ確認なんてしなくてもいいのに、と思っている。
思っているだけじゃなくて、一度、やるべきことをした後で私はちゃんと尋ねたのだ。
 
「なんでいつもいつも、やってもいいかどうか訊くの?」
「合意が無かったらレイプになるだろう。」
と信行はまだ私の体を捉えたまま、息を整えつつ言ったのだった。ジェントルマンなのだった。
私は、自分がそんなに大切に扱われたことが無いので、そんな資格があるのかどうか分からないので、そして聞いてみようとは思わないので分からないけど、
 
信行が過去に他の女の子にも同じようにしただろうか。
と疑問に感じている。
「これは嫉妬というものだろうか。」
と私は独り言を言った。信行がお風呂を使っている気配を安心して感じながら。まださっきの行いの名残の、二人分の体臭と言うよりはしっかりと信行の匂いしかしない布団にくるまって、
もちろんまだ残っている信行の体温の名残に安心してくるまっていた。
 
実は私は、信行が私に触れている間よりは、終わったとこうして彼の体温が残っているベッドでぐずぐずしている方が好きだ。
だから、先にお風呂を使っている信行が、きっと長風呂をしてくれればいいなと思いつつ、ある種幸せな気持ちで布団の中にいた。
 
信行の体はきれいだ。
だから信行の体が私にぴったりと寄り添っている瞬間、私は堪らない気持ちになる。肉体が快適だということを教えてくれたのは信行だけど、他の相手でも私はこんな気持ちになるだろうかと、私はいつも自分を疑っている。
 
それでいて、私は自分に信行への執着が薄いことも、ちゃんと分かっていた。ある日突然別れの瞬間が来たら。
私は抵抗なく受け入れるだろう。そもそも私たちの今の状態が、どんな名前で呼んでいいのか非常に曖昧なのである。
すきです、つきあってください、という言葉を交わしたわけでもないので。
 
人を好きになる必要があるのか、と聞いたとき、信行は、そう言われると特にない、と応えた。人を強いて好きになる必要はない、最低な奴らばかりだから。信行はそういった。
じゃあ彼にとって私はどんな存在に映っているんだろう。健康な若い男の子に、必然なものだから、というだけなのだろうか。
 
私の物思いは続いていた。
果たして私は信行のことを、これから好きになれるのだろうか。逆言えば、私は信行のことを好きになりたいのだろうか。
信行の肉体はきれいだ。でも、それだけが私が信行のことを好きになる理由なのだろうか。私にとって、信行は肉体を超えたところで、好きになる必要がある存在なのだろうか。
私は考え続けていた。
信行の気配が残っているこのベッドの中にいると私は幸せな気持ちで居られた。でも、その幸せに、ちっとも執着していない自分も、確かに同じ場所で同じ毛布に抱き着いていた。