小説「つきものおとし」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

始めて見た時は自分のことを疑った。
「え?」
と思ったもの。でも今では自分の仕事を自覚するきっかけになった。つきものおとしだ。私の仕事はカウンセラーであるけれど、人の体内に溜まった
呪い
 
と外に出してあげることなのだ。それを、自覚するきっかけになった 。
でも初めて見た時には驚いたな。口から。相談者の口から黒い砂がだらだらこぼれているのが、初めて見えた時。
「え?」
と思わず声にしていってしまったら、話していた人は、
「どうしましたか?」
と言った、その瞬間砂は口から零れ落ちるのを止めた。
「いいえ、なんでもありません。それで、どうなったんですか。」
と私はその人の話の先を促したのだった。すると、またその人の口から黒い砂がだらだらこぼれ始めたのだった。
 
当然、私は自分がおかしくなったことを疑って、精神科を受診した。当然、仕事の疲れによるストレスです、と言われて安定剤を処方された。
らちが明かない。もし精神科を受診して、ストレスです、と言わない、先生に出会えたらそれはきっと腕のいい医者だ。
仕事柄一緒になることが多いのだが、精神科の医者とは
「ストレスですね、薬を出しましょう。」
と言っていればいいだけの仕事である。だから悪徳医師も多いし、転売目的の悪徳患者っも多い。たいへん、精神科選びはたいへん。
 
医者で問題が解決しなかった私は、勤めて他の事に集中しようと考えた。休みの日には朝から防水ヘッドホンで音楽を聴きながらゆっくりお風呂に入ったり。
あんまり行ったことのないアートっぽい映画館でフランス人監督のマイナーな映画を見たり。
 
ちょっと思い切って高級スーパーに言ってワインとチーズを買ってみたり(どちらも美味しかった)。
と言うような努力はすべて泡と消えて、相変わらず私は仕事中に相談者がその身のうちのあるものを言葉にしている時に、黒い砂がだらだらだらだらこぼれているのを見ていなくてはならなかった。
 
でも、あるころから気づいたのだけど、定期的にやってくる相談者の、口からこぼれる黒いものの量がすこしずつ減っていく。
最初はだらだらだらだらこぼれていたものが、やがてさら、さら、というかすかなものにかわっ行って、とうとう一つも零れ落ちなくなった。
 
そしてその時、相談者の顔はつきものが落ちたみたいに、きらきらと晴れやかだったのだった。
だから私は思った。
ああこの人たちは体の中に呪いをため込んでいるのだな、と。誰かを恨んだり、誰かに恨まれたりする生き方をしているうちに、積もり積もって体の中に溜まって感情が古くなって腐乱して、
それで呪いみたいになってしまんだろう。
そして、それを話すことで口から呪いがこぼれ出て行くのだ。そしてみんな吐ききったときに、あんなに晴れ晴れとした顔をするのだろう。
 
最初は驚いたけどね。
でも私は今では自分の仕事を自覚している、カウンセラーじゃない、私は人に話をさせることで、その人の呪いを解き放っているのだ。
 
わたしは、つきものおとしだ。