小説「見える?」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

空港の駐車場に不法投棄されていく車が増えて行って、それをいちいち税金で処分しなくてはならない。

それにナンバーから持ち主を割り出しても、そいつがとんずらを決めているからどうにもつかまらなくて、ちっともらちがあかないんだ。

 

というニュースを見たとヒロトに言った。

「いいんじゃねえの?」

とヒロトはあっさり同意してくれた。

「一台くらい燃やしたってなあ。」

 

俺たちは雪緒に狼煙を上げようと思っているのである。俺とヒロトと雪緒は保育園からの同級生なんだけど、雪緒のやつは先月親父さんの転勤

(とばされることになったのよ、と雪緒は言った。)

で隣の県に引っ越してしまった。だから雪緒に見えるような狼煙を上げようと、俺たちは計画していたのだ。

「何が良く燃えるかな。」

「やっぱり車じゃねえかな。」

と俺たちは話し合っていた。車くなら雪緒から見えるくらいの火が上がるだろうか。

「とりあえず一回燃やしてみねえとなあ。」

「廃車場、どっかになかったか?」

 

と話し合っていた時に、ニュースで空港の廃車問題を見たのだ。

「いいと思うぜ。」

とヒロトが言う。

「空港の駐車場広いからな。一台くらい燃やしたって問題になんねえだろう。」

「ああ。でも一応すぐ逃げようよな。」

俺とヒロトは翌日の土曜日に、ヒロトんちの倉庫に有った冬の使い残りの灯油缶を持ち出して、チャリで空港に向かった。

 

確かに空港の駐車場はばか広かった。

でも廃車が置かれている場所はすぐに分かった。ぼろぼろの車がフェンスのぎりぎりに、どうやって持ってきたのか知れないが、ほとんど押しつぶされてぎちぎちに溜まっていたのだ。

俺たちは灯油缶を交互に抱えながら、ぎっちぎちに押し込まれている車のボンネットを進む。

多くが錆びて、ゴミがいっぱい入っていた。

 

「これなんかいいんじゃねえか、おい、ヒロト。」

おれは先を進んでいたヒロトに声を掛けた。

「なんだよ。」

「これ、中に布団入ってる。」

「見せて。」

ヒロトがボンネットの上をジャンプして戻ってきた。おれが見つけが車の中には、元は白かったんだろけどもうほとんど灰色に汚れて、ロープでぐるぐる巻かれた布団が詰め込まれていた。

「お前、スパナ持ってきたか。」

「ああ。」

俺はしょっていたバックパックの中から、お父さんが使う一番大きなスパナを取り出した。

「貸して。」

手渡すと、ヒロトは後部座席の窓ガラスを思いっきり叩き割った。ガラスは、あっさり粉々になった。

「うわ、くっせえな。」

「灯油かけろ、灯油、早く。」

確かに車から漏れてきたのは恐ろしい悪臭だった。一体何捨てたんだよ。おれはヒロトに隣の車に置いていた灯油缶を渡す。

ヒロトは割った窓に体を突っ込んで、右足で助手席のシートに思いっきり踏ん張ると灯油を布団にざぶざぶかけた。

「やるぞ、んですぐ逃げんぞ。」

俺はヒロトが車の中から出てくるのと入れ替わりに臭い車の中に手を入れて、火をつけたマッチを投げ込んだ。

「走れ、ヒロト!」

俺たちは元来たボンネットの上をダッシュした。

背後からは何の気配も追ってこなかった。それでも、どんな風に燃えるのか分からないからとにかく俺たちは全力で駐車場を奪取した。

 

チャリを止めたところまで戻って、ぜえぜえいいながらお互い座り込んでいたら、ぼん!と音が聞こえて、振り向くと車はものすごい勢いで燃え上がっていた。

黒い煙が上がる。俺たちはチャリに乗って更にばれないように逃げた。

ヒロトの家に帰ったら、すぐ消防車のサイレンが聞こえて何台もの赤い車がわらわら走っていくのが見えた。まずい、消される。俺たちは急いで雪緒に電話を掛けた。

「あ、雪緒か?」

「智樹?久しぶり。どうしたの?」

「窓の外見ろ。煙上がってんの見える?」

けむりー、と言いながら雪緒が、多分、自分の部屋の窓を開ける気配がする。

「別にー。なんにも見えないけど。どうしたの?」

「えー。何だよ畜生。俺たち今車燃やしてきたのによ。」

「おまんとこまで煙上がってんの見えねえの?」

とヒロトが言うと、

「何考えてんのよ!」

と雪緒が電話の向こうで怒鳴って、それから大爆笑した。

「もう。馬鹿なんだから。」

と言って、雪緒が笑って、俺たちも可笑しくなって全員で爆笑してしまった。