長編お話「普遍的なアリス」の12 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

とんぱちな大人が居るとしたら、それが私の母親だ。今日母親からソウスケの家に、私あての葉書が届いた。

恋人と一緒に何処か海外の、おそらく南の島に行った写真がたくさん使われていて、

「早く一緒に暮らせるようになるのを待っています。」

と、書いている。まったくとんぱちなんだから。嘘っぱちなんだから。

 

両親が離婚するときに、私は母親に一緒に家を出ましょう、と言われた。

「お父さんとお母さん離婚するの。」

「そう。」

私は14歳で、数学の宿題をしながら母親の話を聞いていた。この人は基本的に自分の事しか考えていない。だから私は、自分の母親の話は聞かないことにしている。

「だからこれからはお母さんと一緒に暮らしましょう。」

「嫌。私はソウスケのところに行くの。」

私は数式をノートに書いて行くのにイライラしていたから(数学はあんまり好きじゃない)、早くこの人どっかに行かないかなあ、と思っていた。

「そんなのだめよ。ソウスケさんはちゃんとご家族がいらっしゃるんだから。」

「いいの、前から約束してたんだから。」

私はちょっとノートから顔を上げて、

「あんたたちが離婚するのなんて分かってたんだから。」

「唯。」

「知ってるのよ?彼氏居るの。またおんなじこと繰り返すのね。だから私は一緒に行かない。好きなようにしたらいいでしょう。

私はソウスケのところで暮らす。そういう約束なの。」

 

と私が言ったら、明らかに顔が喜びで煌めいていた。基本的に自分の事しか考えていないのだ。

一緒に暮らしたって、私を邪魔者にするのは初めから分かっていた。

 

父も変わった人だけど、母親は更に輪をかけてとんぱちだ。何も考えていない。自分の事以外何も考えていない。

 

たまたま私たちの父親が気に入ったからむりやり言い寄って、私が発生して、それで父親も変なひとだから、他にもっとやりようもあったろうに、そもそも愛していた筈のソウスケの母親をあっさり家から追い出してしまった。

彼なりに、何かの責任をとったつもりだったらしい。でも父は終始私に興味を示さない。やるべきことはやった、と思っているのだろう。

父は変な人だ。感情に火が点っていない人だ。

 

そして、まんまと父の妻になった後に、まったく見向きもされなくなった私の母親は、こっちはこっちで好き勝手するようになった。

最初の頃は私をダシにして父の気を引こうとしていたのだが、

(だから幼いころの私の写真は、気味が悪いくらいかわいく飾り立てられている。そしてそれは、ソウスケの手によって丁寧に分類されて保管してある)

効果が無いと悟ると、父が無関心なのをいいことに遊びほうけるようになった。昼と言わず夜と言わず、家に居なかった。

一体何人の男性と付き合っていたのか、私は知りたくもないし知る方法もない。しいて言えばそれで楽しい思いが出来たんなら良かったじゃないの。と言ったところ。

 

そんなとんぱちさんから葉書が届く。

一緒に暮らしたい。

 

「馬鹿にしてるよね。」

私は手紙を千切って捨ててからソウスケのところに行った。今日はPC画面を開いたまま、何冊かの分厚い本を同時進行で読んでいる。私はいつものベッドに腰掛ける。

「そうか?おれは分かりやすくて好きだったけどな、あの人の事は。」

と、言った。

「分かりやすかった?」

「金目当てだったからな。でもその結果お前が生まれたんだ。お前は札束の端から出てきた命なんだな。」

と、速読でページを捲って行きながらソウスケが言った。

「じゃあソウスケは札束に感謝しないとね。」

私が言うと強く頷く。コーヒー淹れてくれ。

「梓は料理は文句なしなんだがコーヒーは淹れられないからな。」

と言った。