小説「知りたい?知りたくない?」 | 文学ing

文学ing

森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

蔵に隔離されている弟に食事を運ぶのは私の役目だ。

弟は病気だ。私の家の、遺伝する病気。私たちの代では弟に出た。弟が産まれたとき、だから助産師さんたちは酷く悲しんだそうだ。

無理もない。

なのに、弟に会いたいと言ってくるひとは月に2、3人はある。私の家の遺伝性の病気は、ここら一帯では有名だ。

「史さまに逢わせてもらえませんか。」

弟はフミサマと呼ばれている。父はそれを怒る。
何を思ってあんなものを視たいと言うんだ。

と言って怒る。だから弟は決して蔵から出ない。父が断固として弟を人に遭わせない。

“死人書き”
と、呼ばれる病気なのだそうだ。弟の目は産まれた時から見開いていて、赤い。真っ赤だ。

弟の、死人書きの目を見ると、自分がこの先どんなように生きて、そして如何にして死んでいくのか。

自分の最期が。

見えるのだ。それが、私の家に伝わっている病気。
「そんなものを、知る必要などない。」
父は弟を外に出さない。

しかし中には多いのだ。
自分がどう生きて、如何に死んでいくのか。
知りたい、知りたくて堪らないと言う人が。興味本位だったり、不安で仕方がなかったり。知りたくて知りたくて堪らないのだ。

私は、
知らない方がいいと思う。

母が弟を産むときに、私も側で手伝っていた。女の子の仕事だからと言われて。

私は、知らない方が良かったと思う。

あの子が産まれた時私は視たもの、あの、赤い目を。