膝の上で、牛乳を飲んでいる彼の額に触れていたら、
お、今日は君と私の脳波の峠が割合マッチしているぞ、と思った。まだ網戸にしています。
枯れ草越しの風が床に落ちたチラシを吹き飛ばす。上着をもう一枚着せないと、寒い。
天国は成層圏より向う側にしか無いはずだから其処からやって来る君たちはすべからく宇宙人だ、会話は出来ない。
確信している。
宇宙語を体得してこの国にやって来た君と私の間では会話の成立は絶望的だ。絶望的なのは佳いことだ。
次に何をするべきなのかを考えるよすがが出きる。だから私は考える。会話が通じない君たちと一緒に生きていく方法について考えている。
考えることは止めない。君か私か、どちらがどちらかを見限るまでは、私たちは一緒に生きていかなくてはならないのだ。
中津国の掟だから。
成層圏の向う側からやって来た君は牛乳が好きだ、毎朝飲んでいる。対して君を膝に乗せている私は自分のために珈琲を作ることが困難である。
君と生きていく為のいくつもの細やかな困難、私は大体いつも、その事を考えてくらしている、毎日のことだ。
君たちが成層圏の向こうにある天国からやって来たのにたいして、
私は地の底の泥の中からうっかり撒かれた種が貪欲だった為に芽を出して今日の光を浴びている。
君たちと私では成立の過程がまるで違う。だから脳波だってたまには噛み合わない。
でも今朝みたいに登り下りがぴったりと沿うような瞬間もあって、
成層圏と、地の底の真ん中にあるこの中津国で邂逅した私たちの毎日は、そんなに悪くないと私は思っている。
君たちは宇宙からやって来た。
私は地の底から生えてきた。
ぜんぜん違う。なのに今一緒に居て君は私のお膝に乗っている。
面白いな。
ここは真ん中の国。上に行くことも出来ないし下に降りることも出来ない、中津国で出会ってしまったら、どちらかがどちらかを見限るまでは一緒に居るより仕方ない。
面白いでしょう。ぜんぜん違う所から来たのにね。
もうすぐ冬が来る。
うら庭に繁っている枯れ草は、今度人に頼んで刈り取ってもらおう。