「もしかしたら飛行機の中で流星群が見えるかもな。」
双子の妹の家出に付き合っている。深夜の高速バス乗り場に二人で最後に座っている。
「もう面倒くさいから帰ってこない。」
と妹は言った。二人で途中コンビニで買ってきたアイスカフェラテを飲んでいる。この時期になるともうアイスでは寒い。
「やっぱりホットにすればよったね。」
と二人とも考えているから、口には出さないのだった。分かりきっていることを口に出して言うのは、その必要が有るときであって、今は違う。妹はもう家に帰ってこないつもりだと言った。
彼女のカップのなかでカフェラテはもう無くなってずるずるストローが鳴っている。
「うるせえなあ。」
と私は言った。このずるずる言うのもこれで最後か、と思った。深夜の高速バス乗り場で。
「ねえ、流星群ってどういうこと?」
と妹が聞く。
「今日辺り獅子座流星群っ言うのがよく見える時期なんだって。南側だったか東側だったかな。
飛行機の中で流星群が見られるなんて、たんだか佳くない?」
と私は訊いた。妹は大きな鞄にもたれてバスを待ちながら、返事をしない。
私たちには返事をしなくってもいい瞬間と言うのがあって、今がそれなのだ。
「何にもやりたいことがない。」
と言って学校を卒業してから家でバイトもせずにごろごろしていた妹は、
両親からやれ就職しろ見合いしろとせっつかれるのに嫌気がさしたのだ。
「外国に行く。どこでも良いから外国に行く。それでもう帰ってこない。」
と言って大きな鞄を買ってきたのだった。
その大きな鞄にタオルの代えばっかり詰めている妹に、私は訊いた。
「ねえ、あんた、このまま死ぬつもり?」
妹はタオルを畳んでいた手を止める。
「それは今すぐの事?長期的視野を持って?」
「長期的視野を持って。」
私は応えた。妹はタオルを膝に置いたまま暫く沈黙していた。
私たちには時々確認し合わなくてはならない時があって、今がそれなのだった。
「うん。
長期的視野を持って死んでくる。何処か。あんたもおかあさんたちもしらないところで。
しあわせになれるかどうだか分からないけど、とにかく日本の島の上では死なないわ。」
「そっか。」
と私は応えたのだった。
だから今が嘗て無い瞬間なのだ。
一人で充分な人間がわざわざ二人も居てその一人が今まさに居なくなろうとしている。
妹は大体わたしで、
わたしは大体妹で、
だから確認し合わなくても良い瞬間と言うのがあるのだ。今がそれだった。
だからこそ、この深夜の冬を待つバス停が、私たちにとって嘗て無い瞬間なのだった。
二人居て余分だったものが、有るべき姿に戻る。
私も妹もそれを感じていた。生まれる前からずっと一緒にいた自分が一人居なくなる。
そして私たちは、初めて有るべき姿を得る。
「あんたが小さい頃から夢ばっかり追いかけてるから、あたしの分が無くなったのよ。」
と隣で妹が言った。最後の夜に。