ページを終えたら榮妃の物語が終わってしまうように、
スイッチひとつで何もかも無かったことになってしまうと思うと私はどうしてもそのスイッチが押せないのだ。
いや押すのだ。それは分かっている。
おかえり。どうだった。
そう、夫は聞くだろう。修学旅行みたいに。
きがすむまで行っておいで。そう言って私を外に出した時と何も変わらずに、
おかえり。どうだった。そう、私を家に入れるだろう。
私は今日で何度目かの眠りに着くためにまたハイボールを作った。これが何度目の眠りなのかさっぱり分からない。
雨の国は台風に捕まったまま揺れたり濡れたりする毎日が終わらないでいる。私はずっと部屋に居て、眠っている。眠っては目覚め、目覚めるとまた眠る準備をする。
いいのだ、私は必ずスイッチを押す。それは分かっている。
だから先生に対してもスーパーに対しても不義理で有るぶんに全く構わない。
私が彼らと関わる事ももう無いだろうから。私は先生の所で働かない。私はスーパーで働かない。私は、何もかももとに戻っていく。私は、あの人のことを全て無かったことにする。
嵐が私を襲っている。 窓を開いたまま、雨に打たれて眠っていると、夢の中にあの人の気配が確かにあった。
でも会うことはどうしても出来なかった。
私はあの人に会うことは出来なかった。
私は夢でもそうでなくても涙をこぼした。やっとの想いで自分の為に涙を流した。
仕方がないのだ、私の中にはずっと雨が降っている。夫の泪に閉じ込められている。
こんなにも夫の心の中に私が居てしまう。だから私は何処にも行くことができない。
私の居場所は夫の想いの中にしかない。他の場所に私は、自分のいこえる場所を見付ける事が出来なかった、どうしても。この心地よい檻の外に私の住むべき国はどうしたって、見付からなかった。
私は眠っている。あの人の気配はだんだんに遠ざかっている、私は現実でも夢の中でも涙を流している。最初から何も望んで居ませんでした、私は夫の想いに囲われていました。そして、
あなたのことがすきでした。
おしまい。