小説「飴!」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

「あ!」
プラスチックボトルに入ってずらりと並んだ色とりどりの飴を見て私は思わず声が出た。

ゆいのおばさんちの飴!
と思ったからだ。ゆいのおばさんち。何故だかそう呼ばれていた。
ゆいのおばさんちと言うのは、恐らくむかし「萬屋」と呼ばれた類いの商売だと思うのだが。

草刈りがまとか砥石とか半紙に筆とかガムテープとか糊とか鍋とか学校で使うノートや鉛筆とか、

それから駄菓子。大きなプラスチックボトルに入った色とりどりの飴。小さいのは二十円で、憧れのフルーツミックス味は五十円だった。子供のころ小遣い握ってみんなで行った。
その光景が、カフェに再現されていた。

オレンジ味二十円。
フルーツミックス味五十円。なんてこと。

“店内でお召し上がりの場合は紅茶をご注文ください。”

と但し書きが付いていた。私は店員のおねえさんに聞いてみた。
「飴食べながら紅茶なんて飲めます?」
確かにカフェで飴ばかり食べられたら迷惑でしかないだろう。

おねえさんはにこにこと、
「いちご飴なめながら紅茶飲んだらいちごティーになりますよ。」
と言う。私は楽しくなった。

「オレンジ味食べてたら?」
「オレンジティーですね。」
「フルーツミックス味食べたら?」
「フルーツミックスティーですね。」

おねえさんも手の甲を朽ちに当ててふふ、と息をした。
「ソーダ飴食べたらどうしましょう。」
「ソーダティーですかね。」
とおねえさんは笑いながら言った。
「なんです、それは。」
「さあ、わかりません。私はそんなもの飲んだことがないので。
でもソーダ飴と紅茶だから、ソーダティーですよね、間違いなく。」
と、至極当たり前の事を言うのだった。

私は結局フルーツミックス味を口に含みながら、熱い紅茶でその午後を過ごすことになった。
年取ったなあ。
と思いながら。でもそれも悪くない。