小説「呪わしさの中で」 | 文学ing

文学ing

森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

悪魔のやり口は飴玉で子供を拐おうとする悪党と全く同じ物であって。

母親の胎内が、とても暖かく快適な場所だからと甘言されて我々はこの世にやって来てしまうのである。


そこはうっすら暗くて幽かに暖かくて静かな音がずっとしていて柔らかく手足を伸ばす事が出来て、そしてうっとりと眠っておればいいのだよ。

そんな風に甘言されて、私たちはついついこの世にやって来てしまうのである。

あんまりな手口だと思う、そこは悪魔のやり口だから。いつかは其処から出なければ成らないことを知らずして、私たちはこの世にやって来てしまうのである。出なければいけないなんて、知りもせずに。ずっと微睡んでいたら良いと、言っていたのに。

だからこの世に呪わしさが満ちているのである、だって、
私たちは悪魔に騙されてこの世に生まれ、母胎から引き剥がされた時にそれを知って最初で最大級に恨みを叫ぶのだ。

こんなはずじゃなかったのに!
とね。

誰もが生まれてしまった哀しみの真ん中で、それでも生まれてしまったから生きていかなくてはならないから、
どんなに悲しくても、自分でも他人でも恨んでも、

産み堕ちた以上ここに居なければ、それが哀しくて仕方なくて、諸々の悲運というのは引き起こされる。あのとき甘い言葉に乗らなければ。でも仕方ない、無知を担保に私たちは苦痛のレーンにとり残された。

悪魔のやり口はまことに汚い。
だからこそ、たった飴玉一つ分の僥倖で、私はつい今日も、しあわせを感じてしまうのだから。