「で、ハラヘドってなんなんです?」
「神道の考え方でね。
諸諸の罪咎穢を祓い清め賜う祓戸大神
っていうのがあって。
要するに楢岡のバカがこの地にケガレを引き起こしてしまったから、俺がその埋め合わせしなくちゃいけなくなったの。」
まあそう言うのが神通持ちの役割でもあるんだけど。と間崎さんは諦めたように言う。とても疲れている。
「何でそんな格好なんですか?」
私は疑問に思ったことを聞いた。いつものラフなアウトドアな感じじゃなくて、神主さんが着る着物と袴。
「山王さんの神職さんに借りたんだ。
まさかここまでの用意が無かったもんで。
土地の神々が荒御魂になったことで神もケガレを被ったから。
穴埋めをするために俺もそれなりに自分を削らなくちゃ行けなくてね。そのための心意気。」
「こころいきですか?」
「そ。本気度を示すってこと。
身を慎み、敬いの心をもって、
祓戸の
瀬織津姫
速秋津姫
息吹戸主
速佐須良姫
の大神の名に掛けて
ごめんなさいもうしません赦してください!!
と、そんな言い方はしないんだがまあそんなような意味の事を言って歩いてきたんだ。鏑木の山の中を。
言葉は神の尊体だから。神の被った穴は言葉で返さないといけない、
でもただ返すだけじゃいけない。俺が自分のしたことを心底詫びている証しに、俺も自分の人としての真体を裂く必要があった。
今回は、時間と肉体ね。」
ああ、腹へった、と間崎さんは項垂れる。
「間崎さん、お腹空いてるんですか。」
「うん。
二週間のまず食わず。そう願掛けて山に入ったからね。
これからお宮の斎場を借りて今夜いっぱい言行したら、やっとでお怒りも解けるかな。」
「ええ!」
驚いた。そんなことしたら死んじゃう。
あー、やるもんじゃねえこんなこと。
「ああくそ。重ね重ねも楢岡のクソヤロウのせいで俺がこんな目に。
でもあいつの信条俺が叩き割っちゃったから俺がやんなきゃどうしようもねえし。」
間崎さんは後ろに体を反らして大きくため息を付きながら、いつまでも、
楢岡のヤロウ、とぶつぶつ言っている。