長編お話「鬼子のヒオリ」の38 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

それでも、
間崎さんが居るとしたら山王さんだから私はまた行ってみた。今度は山王さんの社務所で神主さんに聞いてみた。

「間崎くんは今日降りてくるはずだけえ、まっとったら会えりゃせんかな。」
と言う。
私ははじめてお宮さんのおうちに上げてもらっておばさん(奥さん?)にお菓子をもらった。カステラだった。紅茶と一緒におばさんが客間に持ってきてくれたのだった。

私は、お皿に二きれ乗っていたカステラを見ていたら頭から離れなくなって、
「すいません、ひとつ持って帰っていいですか?」
とおばさんに聞いた。
「遠慮せんでも、ほしいならあげるけえ。」
おばさんはにこにこ笑って、いくつ? と訊くから私は
「二きれでいいです。」
小さい声になってしまった。はいはい、とおばさんは嬉しそうに奥に引っ込んでいった。何故か嬉しそうに。
私は手持ちぶさたになったのでもう一きれのカステラをかじる。
おみやげは三郎彦にあげよう、と思ったのだ。

「衣笠さん、間崎くん、戻ってきただけど。」
と神主さんが客間に入ってきて教えてくれる。私は、はい、
慌てて食べかけのカステラをもりもり平らげて、ありがとうございます。と神主さんにお礼を言った。

「なんだあそげにばたばたせいでもいいのに。」
と、おばさんが奥から掛ける声がする。
私は走って神主さんちの玄関から出ていった。
間崎さんはお清めの水の所に居て、柄杓で口をゆすいでいるところだった。
水色の袴を履いていたんだけど、どろどろに汚れて裾の辺なんかカギサキになっていた。

「間崎さん!」
私が会いに来るとこの人はたいがいぼろぼろだなあ、と思ってしまう。
「ああ、ヒオリさん。」
振り返った顔は悲しくなるくらい青かった。
どう? その後変わりない?
なんて言うんだけどどう考えても変わりあったのは間崎さんの方だった。
「どうしちゃったんですか?」
「謝罪回りしてるとこです。」
そう言うと間崎さんは柄杓をお清めに戻してべったりと地面に胡座をかいてしまった。

「きっついわあ。
久しぶりにやったけど。糞、楢岡の野郎マジふざけんなよ。」
謝罪回り。と間崎さんは言う。
「それって三郎彦の言ってたハラヘドって奴ですか?」
がっくりと垂れていた首を辛そうに持ち上げながら間崎さんが私を見た。
「三郎彦くん? 言い当て妙だな、さすが新生狗賓。」
「知ってるんですか?」
「うん。山中歩き回ってたからね。彼は、結構心配してちょくちょく様子見にきてくれてたよ。」
三郎彦らしいや、私はなんだか嬉しかった。