長編お話「鬼子のヒオリ」の30 | 文学ing

文学ing

森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

「ごめんね、びっくりしちゃったよね。
はい、これ、飲んで。」
私を殴ったコーラのボトルを開けて、ワゴン車の男はプラスチックカップに中身を注いだ。

猛スピードで山向うの社に連れてこられた私は、不安と心細さでいっぱいになった目と鼻をずびずびさせていた。男がコーラを飲めと言う。

「ごめんね、急にこんなことして。」
まあ、ちょっと落ち着いて、と、言うのだ。
私は突然こんな目にあったのがものすごく心細かったのだ。
この人は一体なに? 私のお父さんを知っている。と言うことは間崎の関係の人だろうか。
そんなことを思いながら私は連れてこられた無人のお社で、ものすごく心細くて必死にコーラを嫌がった。

「いりません。」
あなたはなんなんですか。
そう言ったら涙が出てきて鼻がずびっとなった。

ずっと、ずっと三郎彦の吠える気配は感じられる。
でもなぜか遠くなっていく。そして遠くなるほど三郎彦がますます怒り狂うのが私に伝わる。

三郎彦どこにいるの?

と思った。あんなに付きまとわれるのが嫌だったのに。今は三郎彦がいないのが心細くて涙がつー、とほっぺたに垂れた。

「びっくりさせてごめんね。
ちょっと間崎と話をしたくて、君の力が借りたかったんだよ。」
そう言う男は、おかっぱみたいな似合わない髪型の痩せたおじさんだった。
「なんなんですか。間崎さんがなんなんです。」
私はまたすひん、と鼻をすすった。心細さが収まらなかった。みいちゃーん、とさけびたかった。
「俺は間崎の同業者の楢岡というものでね。
間崎がバカな事をするのを止めたいんだよ。」
「間崎さんが?」
「僕はね、君のお父さんを助けたいんだよ、鬼子のおじょうさん。」
とそのおじさんは真面目な顔で話すのだ。