小説「バロル」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

人の顔が嫌いなんだとその人は言う。気味が悪いんだ、と。何でですかと尋ねた。
「目が二つあって気持ち悪い。なんかバランス悪いだろう。」
などと言う。一つだったらいいと言うのだろうか。

「うん。
その方が、俄然バランスがよいと思うよ。」
目が二つの人はなーんか気持ち悪くってまともに見られないんだよね、と言う。

「だってあなたも二つ目が有るじゃないですか。」
「鏡は見ない。」
「不便じゃないですか?」
「不便してるように見える?」
その人は髭も髪も綺麗に整えている。

「慣れれば目をつむってても何だってできる」
と言う。自宅の洗面台と風呂場の鏡はシートとガムテープで塞いでいるのだそうだ。自分の顔を、見ないために。

「でもあなた私の顔はよく見ますよね。」
私は疑問に感じているのだ。何故私の顔はそうまじまじとみているの?

「貴方はいいんだ。なんか、バランスが良い。」
「私だけ?」
「うん。貴方はまるで、目が一つしかないみたいな感じがする。」
ヒトを魔眼の悪魔みたいに言うな。
「結構失礼なこと平気で言うんですね。」

「それだけブレずに同じとこ見てるってことだよ、」
貴方だったら目二つでも必ず俺の事だけ見てくれそうな気がする、等と言う。
安心するんだ、と言う。
「他の人は嫌なんだ。左右の目で違うもの見てそうで気味が悪い。」
とその人は言った。そして私の両目を嬉しそうに覗く。

貴方は大丈夫。と。