長編お話「その顔に、根の跡」22 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

「barとかよく入るの?」
「こちら、俺のオジさん。」
どうも。
口数の少ないバーテンダーさんがそう言った。拭いていたグラスは既に何処かに片付けられている。

「俺はいつもの水割ください。この人にはミモザ作ってあげて。」
「ミモザ?」
「大丈夫。飲みやすいやつだから。」
そう言った岡村くんは、既に何人も女連れてきてるな、と言う
慣れ
を煙らしている。

バーテンダーさん、岡村くんのオジさんは少々お待ちください。と言ってカウンター後ろの酒瓶に手を伸ばす。
「宗田って正直あんまり覚えてないんだよな。」
先に出された小皿のナッツを口に入れながら岡村くんが言う。
どうぞ。
と言ってオジさんが私の前にコースターとロンググラスに入った黄色いお酒をくれた。
焼肉屋で鈍磨している味覚ではただ冷たいこととあまいことしか解らないお酒だった。
しかし口に心地よい事だけはたしかだった。
「中学でも同じクラスになったこと、なかったよね。」
私と岡村くんは小学校も別々だ。
「あんまカラミがなかったよな。」
「岡村くんのことは覚えてるよ。ヤっちゃんと仲良かったし。たしかバスケ部の主将だったよね。」
「よく覚えてるな。」
「バスケ部はモテたからねえ。」
私は記憶にある事実を感情の水けを出来るだけ絞って確認した。というか私の脳はもうだいぶカラカラだ。
「宗田何部だったの?」
「ナギナタ。」
「薙刀? そんな部活あったのか?」
「そうだよ。県内で中学女子薙刀はうちの学校だけ。
オカゲデ毎年全国に行って一回戦負けしてきたぜ。」
「そんな過去は知らなかった。」
どうぞ。
オジさんはカラン、氷を鳴らして岡村くんの前にウイスキーのグラスを出す。どうも。と彼は身内にお礼を言った。

「で。
何故私たちは二人でbarでのみなおしているんだ。」
私はシンプルに解らないことだけを聞いた。
「いや、
俺宗田のこと何にも知らなかったなあと思ったから。」
「知らなかったらなんだよ。」
「いや、君と言う男子生徒が居たのは記憶にあったけどな。」
「なにが男子だ。失礼な奴だな。」
私は甘いものを飲みながら隣の相手を凄んでやった。
つもりなんだけど迫力なんてありゃしないだろう。
「少なくとも女子じゃねえだろう。」
「確かにそうだ。」
それはきっと、今でも。

「でもあんな言い方した女をひとりで帰らせれねえだろうよ、女かどうかは置いとくにしても。」
「だからいちいち失礼な奴だな。」
私はまぶたのうすい皮を針で貫かれた様な違和感を覚えてお酒をカウンターに下ろした。