山が堅くなっていた。人だったら肩こりや腰痛がひどい時みたいに。
あるいは捻挫や打ち身して辛い時みたいに。
でなければいっそ緊張していた。風が吹いても雨が降っても普段とは違っていた。
私の家のうら庭の、丁度柿の木が生えている向う辺りから始まる、慣れ親しんだ里山が。
三郎彦の棲んでいるお山が。いつもとはぜんぜん違ってこちこちになっていた。
間崎さんのせいなんだなと私はすぐに分かった。間崎さん、三郎彦に何かしたんだな、と私は思っていた。
山が堅いのは三郎彦のせいだ。
三郎彦の神格がバリバリに張っている。あいつが力を入れすぎなんだ。三郎彦は里山の守り神だから、お山の気配には三郎彦の神格がじかに影響する。
私は今それをしっかりと感じていた。以前はおやっさまの影に隠れて感じられなかったものだ。おやっさまにとっても間崎さんの存在は何か大きなことを決断させたみたい。
とにかく三郎彦のこちこちが山中に響いていた。いよいよだから。
おとうさんが食べられる。
私としては真逆にふわふわしていた。時々、自分の右手を眺めるのがすっかり癖になってしまったのだ。
あの時、ヒトが消し飛んだ時。あの時の感覚が右手からどうしても消えていかない。
あれは実際なんだったんだろう。でもヒトは確かに破裂するみたいにして消えてしまった。
そしてそれ以来私はふわふわしている。重たい冠を被っていた頭が急に軽くなったみたいに。ずっと乗っかっていたものが取り去られたみたいなのだ。
私は自分を守れたということなんだろうか。
見上げるとお山がばりばりしている。吹き下ろしてくる風が尖っている。
私は私とヒトとの間に起こったことの本当のところが知りたくて、学校の帰りに山王さんのお宮に向かっていた。
と、言っても例によって間崎さんはお宮にいるかどうか分からないけど。
片側一車線ぎりぎりの道に白い車が停めてあった。
私は道のはしっこを歩いて向かっていたのだが、その車がどうしても歩く先を邪魔していた。
仕方なく道路に大きくはみ出してその車を抜いていった。
抜いていったらどのくらいしたろう。
私は突然柔らかくて重たい物で通学帽の頭を殴られた、ダーン! とそれはぶつかってきた。私はつんのめって倒れた。
「?、?。」
訳が解らない。驚きもしない。私は次に両肩を捕まれて引っ張り起こされて、白い車に引きずられていく。
ワゴン車で、スライドドアが開いていた。その誰かは私を車んなかに投げ込むと、あとから何か塊も投げ込んできた。
コーラのペットボトルだった。
ばたんっ、スライドドアが閉まってその人は運転席にあわてふためいて(そんな感じだった。)
乗り込んだ。
「ごめんね、心配しなくてもいいからね。」
とその誰かが言う。しんぱい?
鬼子!!!
お山から三郎彦が怒鳴っているのがきこえたみたい。