長編お話「その顔に、根の跡」17 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

「お前たちは一体なにをはなしているんだっ。」
「何って? なんだよ。」
私が思わず大きな声を出してしまったので反応した岡村くんが体をびくつかせた。

「だから小川さんを探して…」
「探してどうすんのよ。」
私はなんだか怒りを感じたので思ったことをみんな言ってしまおうと思った。
男たちはじれじれ言っている焼き網を完全になおざって、はっきり言えば固まっていた。
私は、真剣だった彼らの話し合いに冷水を浴びせたのを自覚した。

「小川さんなんて探してどうすんのよ。

大体ね、最初からそれって小川さんなのか?
言ってしまおうか。私は小川さんなんて同級生の事なんてこれっきりも覚えてないんだぞ。
ヤッちゃんに聞いたら卒アルにだって写真も載ってないって言うじゃないか。

その程度の同級生なんだよ、小川さんなんて。
だって考えてみろよ。お前らその人に対して何覚えてる?
頚筋の痣と背中の火傷と腕の切りきずだけだろ? 他に何か覚えてるのかよ。私は覚えてないぞ。

やりたいようにやらせてやればいいじゃないな。
大体それは本当に小川さんなのか? そんなことも定かじゃない人の生活に、生き方に、何をしよおっていうんだよ、みんなしてさ。

道端で自分を売ってるような人探し出して、なにがなんでも止めさせられるのかってきいてんだよ。

私は出来ないぞ。
どんな経緯があって体売ってるのか分からないのに、兎に角やめろなんて私には言えないぞ。その人の過去に何があったか誰も知らないのにさ。

私だってな。なんにも無かったよ、いいこたなんて。30になったけどこれは良いことだったなんて何一つ言えないよ。

それなのに、訳の分からない同級生捕まえて何の話をどうするっていうんだ。

自分が幸せでも無いのに人の事まで知らねえって言うんだよ。」

途中から何を言っているか分からなくなったのだが私はともかくもべらべらと喋っていた。

宗田さん、ウーロン茶飲めよ。と坂岡くんが言ったのが聞こえた。