小説「客間の畳」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

草いきれを運んでくる風を感じながら無理矢理眠ろうと挑んでいたら、
昔の親戚の家の客間の畳を思い出した。

目が冴えた、眠れなくなった、
何故草いきれなのか?

そらはうら庭の草刈りを怠っているからである。しかし怠ると言うのなら、
我が家のうら庭は、庭、と言うよりもう全く

なのであって(つまり我が家は家屋の敷地内に林がある。田舎には何もない。なにもないから土地がある。)、
草刈りもなにも手に負えないというのが、言い訳でも現状なんである。

草いきれはこどものころの休日を思い出させる。
私はよく知らない親戚の家にいつも預けられていた。

私はその家で全く歓迎されていないようだった。
むしろ邪険にされていた、送り届けられると客間の和室に入れられて、父なり兄なりが迎えに来るまで外に出てはいけないのだった。

客間には縁側が付いていて、障子の向こうの硝子戸を開け放つと日本庭園だった。どういう親戚だったのかは、未だに全く知らないけれど。

私は退屈はしなかった。
客間の和室にはその家の子供たちが集めるだけ集めて興味を失った、
キン肉マン消しゴムが梅干しの瓶いっぱいに入っていたので、私はいつもそれで遊んでいた。
ディテイルのよく分からないゴム人形をひとつ残らず瓶から出して、
色で分類したり配置を酌んで並べたり臭いを嗅いだりして、いくらでも時間を過ごしていた。
そして硝子戸の向こうから翠を撫でた後の風が入り込んできた。木の枠が、ぴしり、と鳴った。

楽しくも悲しくもない記憶ほど体からもこころからも消えてくれないものだ。

どうでもいい思い出だからこそ、思い出したら眠れなくなってしまって、私はタメ息を吐いてメガネをかけると、深夜のコンビニに時間を潰しに出掛ける。