洞窟の闇に無用の光りを茂らせて、
焔の群は今夜も喧しく啼いている。
私は地獄の住人だけれど無情に生れた訳ではないから、苦痛に喘ぐ声を聞けば気持ちくらいは揺らいだりする。
この焔は人間の苦痛の灯り。
今夜も此れだけ多くの人間が大小それぞれの痛みを堪えながらこの夜を生きている。
私はそんな苦痛の灯りが灯る洞窟で、
ただ焔の番をしている。
どれだけ火群が泣きわめくのか、それを守って今夜も洞窟に過ごしている。
私は有情に生まれついたので、どんなに醜い姿をしていても心に感ずる力は備えている。
だから毎夜傷む焔、震える哭き声を聴いていれば、つい手を差しのべて、
さっと手を伸ばして、
その灯りを掻き消してやりたいと、思わない事もない。掻き消してやりたい。哭くほどの痛みなら手を伸ばして潰してやりたい。
私は地獄に生まれついたけど、でもそんな事はしない。吹き消したら消えてなくなってしまうのだ、人とは、人間とは。
たとえ泣き叫んで何物をも恨んだとしても、苦痛を糧に人は生きるものだ、人間は生きるものだ。
だからこれを掻き消せば人はそのものが消えてなくなってしまう。
無痛の朝が来たら人の世界はどうなるだろうと私は思う。この洞窟が真実に暗闇になったらどうなるだろうと私は思う。
私の棲みかは地獄だけれど、でも私はそんなことをしたりはしない。