長編お話「その顔に、根の跡」16 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

男どもは焼き肉そっちのけで小川さんを探す相談を始めている。

私は彼らが何を言っているのか分からなかった。みんななんの話をしているんだ?
小川さんなんてこの世に存在しないのに。
小川さんは傷痕の残像だけが合成されて出来たキマイラみたいな悪夢なのに。

「こうなったら康人にオトリ捜査させるのが一番いいかな?」
え、僕? とヤッちゃんがカクテキを摘まみながら困惑している。そして、
皆には悪いけど、ものすごく気がすすまないなあ、と言った。そりゃそうだろう。
「大体僕小川さんの顔覚えてないよ。」
「大丈夫だ。俺らだって覚えて無かったよ。
だから首筋に大きな痣があったら、そいつだ。」
と岡村君が話す。
「そんなものパット見分からないじゃないか。」
「じゃあ呑屋街でモノスゴイ女が声かけてきたら、そいつだ。」
と坂岡くんが話す。
「でもそれで小川さんかどうかは確証が無いわけでしょ。」
とヤッちゃんは食い下がった。
「こんな田舎の道っぱたで体売ってるような人そうは居ねえよ。」
と岡村くん。
「だからこそ俺ら全員買っちゃったわけだし。」
と小田切がなんだかしょんぼりとして言った。

「だから康人くん、オトリ捜査してくれ!」
と小田切は一転ビールのジョッキを高々と掲げて言った。

「分かったよ。
僕も探してみる。でもさ。皆の方がもう顔も分かってる訳でしょ。
協力して探してくれよ、」
とヤッちゃんは言ったのだが。
「それはそうなんだが。
これほど気まずいもんもねえぞ。」
岡村がだいぶよく焼けたロースを思い出した見たいに箸を取って言った。
一回買った女をその、なあ。

私はそんなやり取りを聞いているだけなのが面倒くさくなったので彼らに対して問いかけた。

「お前たち一体何の話してるわけ?」